抄録
本研究は無鉛ガソリンを使用した国産車11台の15,000km実車走行テストを行い, 燃焼室デポジットとオクタン価要求値の上昇 (ORI) の関係について検討したものである。
15,000kmの走行開始前に全モニター車の燃焼室デポジットを除去し, 3種類のエンジン油および2種類の燃料を用いてORIのテストを行った (Tables 1~4)。また, ORIは正標準燃料 (Primary reference fuel) により2,500kmごとにシャシーダイナモメーターにて測定し, 15,000km走行後にはエンジンを分解し燃焼室デポジットを採取した。
ORIのテスト結果では, モニター車により走行条件が違うこともあり, ORIは車によって異なっている (Fig. 1)。ブライトストックを含む高硫酸灰分のA油とマルチグレードで低硫酸灰分のB油の比較では, A油のORIが若干大きいか, ほとんど差がない程度であった。また, 同一油種においては油消費量の多い車の方がORIは大きく, その効果はA油で著しい (Table 5)。初期のオクタン価要求値 (IOR) の低い車ほどORIが大きい (Fig. 2)。燃焼室デポジット量とORIは直接の相関関係はなく, 燃焼室単位表面積当りのカーボン付着量とIOR補正した Modified ORI に良い相関関係があった。このことは燃焼室デポジット中の炭素質物質の熱伝導性が悪く, かつ熱容量が大きいことから説明できる。無鉛デポジットの熱伝導度は加鉛デポジットのそれと大きな差はないが, 無鉛デポジットの熱容量は加鉛デポジットの2~3倍大きい (Fig. 4)。このことは加鉛デポジットの量が無鉛デポジット量の数倍であることから, 燃焼室デポジットの熱伝導性の悪さによる熱的効果とともに, 燃焼室デポジットの熱容量 (とくにデポジット表面近傍の熱容量) が吸入混合ガスの温度を上昇させ, 表面着火などの異常燃焼に大きく影響していることを示唆している。
燃焼室デポジットの観察 (Fig. 5) から, 無鉛燃料においても加鉛デポジットと同様にフレーキングが発生し, 安定したORIとなる動的平衡状態に達するものと考えられる。