石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
常圧残油のビスブレーキング反応 (第3報)
イラニアンヘビー常圧残油の構造解析と反応機構
須原 真一郎辰巳 敬吉田 肇冨永 博夫
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1985 年 28 巻 1 号 p. 90-96

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抄録
イラニアンヘビー常圧残油のビスブレーキング反応を行い, 生成油の構造解析にもとづいて, 反応の機構や共存する水素, テトラリンの効果について検討を加えた。原料および生成油は前報で述べたように, 留出油 (D), 残油 (343°C+, AR) に分別後, ARを, 飽和分 (Sa), 単環芳香族分 (MA), 二環芳香族分 (DA), 三環芳香族分 (TA), 多環芳香族および極性分(PP), アスファルテン (As) に分離した。硫黄分の反応による変化をみると, 生成油全体としてはごくわずかの減少がみられるにすぎないが, Dでは反応初期に増加し, 次第に減少する傾向がうかがえる。これは初期に, 不安定な硫黄化合物が分解してDに移行しやすいためと考えられる (Fig. 1)。ARの各フラクションの収率は, Asを除き, ビスブレーキングによって減少する (Fig. 2)。
Dにおいては, NMRによりオレフィンの生成が確認された(Fig. 3)。ARの各フラクションの構造解析により (Tables 2, 3), 原料Sa中のナフテンは反応により減少し, 脱水素芳香族化が起こっていることが示唆された (Fig. 4)。原料のMA, DA, TAは芳香環を炭素鎖がブリッジした重合体構造を含み, 反応により, 最も弱いブリッジのβ位の炭素-炭素結合が開裂し, 単量体が生成する (Fig. 5)。アスファルテンは反応により分子量が著しく減少するが, 単位シート構造の大きさには顕著な変化がなく, 重合度の低下が分子量の減少をもたらしていることが分かる (Fig. 6)。
構造解析の結果をもとに, Fig. 8に示すような反応スキームを推定した。すなわち, 反応初期には解重合 (a) が起こり, 軽質化が進行する。イラニアンヘビーでは, この際, 留出油の生成が多い点に特徴がある。同時に, ナフテンの脱水素 (c), アルキル側鎖の切断 (b-1), パラフィンの分解 (b-2) が起こるが, テトラリンや水素が存在すると, ラジカル濃度が減少するため, 分解留出油収率は低下する。反応後期においてはb-1, b-2, および重縮合 (d) が起こる。重縮合は水素供与体が不足の場合に起こりやすいが, テトラリンが存在すると重縮合が抑制されるため, 反応後期においては留出油収率は増加する。しかし, イラニアンヘビーにはナフテンが比較的多量に含まれるため, 留出油収率に与える希釈剤の影響は, アラビアンヘビーの場合に比べて少ない。
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