石油学会誌
Print ISSN : 0582-4664
CsNO3-Re2O7-Al2O3触媒を用いた1,4-ヘキサジエンの液相不均化反応による1,4-シクロヘキサジエンの合成
河合 是後藤 久寿山崎 康男
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1986 年 29 巻 3 号 p. 212-220

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抄録

メタセシスに有効な不均一系触媒の中ではRe2O7-Al2O3触媒が他の触媒よりも活性, 選択性ともにすぐれていることが知られている。著者らは, さらに少量のセシウムを担持させることにより選択性が向上することを明らかにした。1)一方, 反応についてみると各種のオレフィンが適用されているがアルカジエン類の反応は1,7-オクタジエンの反応を除くとごく限られている。著者らは一連のα, ω-ジエンのメタセシスをCs-NO3-Re2O7-Al2O3触媒を用いて行った。13)その結果, 1,7-オクタジエンは分子内反応のみが起こるのに対し, 1,5-ヘキサジエン (1,5-HD) や1,9-デカジエンでは分子間反応のみが起こること, また1,6-ヘプタジエン, 1,8-ノナジエンでは分子間および分子内の両反応が起こることを明らかにした。
1,cis-4,7-オクタトリエンおよびその同族体をメタセシスすれば, 1,7-オクタジエンの反応から類推して1,4-シクロヘキサジエン (1,4-CHD) が得られるものと期待できる。しかし, このようなトリエンの合成法は確立しておらず入手が困難である。そこで, Eq. (1) に示したように1,4-アルカジエンを原料として用いればまず分子間反応により1,4,7-位に二重結合を有するトリエンが生成し, さらにこれらが分子内反応を起こして1,4-CHDを生成する可能性があるのではないかと考えた。本研究は原料として1,3-ブタジエンとエチレンとの共二量化反応により容易に得られる1,4-HDを用い, 1,4-CHDを合成することを目的として, 大気圧下, 液相流通系でCsNO3-Re2O7-Al2O3触媒を用いてメタセシスを検討したものである。
触媒の調製法, 実験方法および分析方法などについては既報1),13),18)に準じて行った。使用した1,4-HDの組成はcis 5.5%, trans 94.5%であった。
反応の経時変化を Fig. 1に示した。反応温度が高くなるにつれて誘導期は短かくなることおよび活性劣化も増大することがわかった。また, 反応生成物分布も経時と共に若干変化した。従って, 本研究におけるデータは誘導期以後の活性劣化および生成物分布の経時変化を反応時間0に外挿して得た値を用いた。
反応温度の影響を Fig. 2に示した。転化率は40°Cまで急激に増大したがそれ以上での増加は著しくないのに対し, 1,4-CHDは40°C以上においても増大した。また, 反応温度の上昇につれて物質収支は悪化したがC11~C18のポリエンの生成はむしろ低下した。これらの反応挙動から反応温度の上昇と共にC19以上のGCで検出できなかったポリエンからポリマー状物質の生成は増大しており物質収支を悪化させる一方, ポリマー状物質が触媒表面を覆い活性劣化をもたらすものと考えられた。活性劣化した触媒は空気酸化することにより完全に再生することができた。
接触時間 (W/F) の影響 (Fig. 3) についてみると, 転化率は接触時間の増大と共に, 1.5g-cat•h/mol位までは急激に増大したがそれ以上では少しづつ増大する程度であった。しかし, 1,4-CHDの選択率はW/Fの増大と共に増大した。
1,4-CHDの収率は反応温度が高く, W/Fが大きい程増大することがわかった (Figs. 2,3)。調べた範囲内での最適合成条件は60°C, 6g-cat•h/molであり, このときの1,4-HDの転化率は95%, 1,4-CHDの収率は50%であった。反応生成物はごく少量のベンゼン, シクロヘキセンおよび1,3-CHDが副生する以外はすべてメタセシス生成物であった。従って1,4-CHDを回収した後の反応液はそのまま, またはポリマー状物質は触媒の活性劣化をもたらすことが考えられたので, それらを除いてからリサイクル使用することが可能である。しかし, 1,4-HDのメタセシスで生成するC2', C3', C4'と反応生成物とのコメタセシスを行い低級のオレフィンにした後, リサイクルする方がより好ましいと思われる。他の1,4-アルカジエンからも1,4-CHDの合成が可能であるが, 原料としては容易に得られる1,4-HDが最も好ましいと考えられる。1,4-HDからメタセシスにより1,4-CHDを合成するこの方法は, 既知の合成法よりすぐれており, 新しい合成法として期待できそうである。
次に, 反応生成物の反応挙動を調べた。生成した1,4-CHDの約10%はベンゼンと1,3-CHDに変化してしまうことがわかった (Fig. 4)。一方, 副生する1,3-CHDは非常に反応性が大きく, 触媒活性を著しく劣化させることがわかった。

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