植物学雑誌
Online ISSN : 2185-3835
Print ISSN : 0006-808X
ISSN-L : 0006-808X
スエヒロタケの自然集団における不和合性因子
I. 狭い領域における不和合性因子の分析
Philip G. MILES武丸 恒雄木村 劫二
著者情報
ジャーナル フリー

1966 年 79 巻 940-941 号 p. 693-705

詳細
抄録

本論文は, 地球上におけるスエヒロタケの自然集団にみられる不和合性因子の生成, 分布, 数などに関する一連の研究の第1報である. 今回は, 岡山大学構内の半径220mの円形領域から採集した15菌株の子実体について, 各菌株における交配型の決定, 組換型交配因子の検出, 各菌株間における不和合性因子の相互関係などについて分析をおこなった. スエヒロタケの交配系は且,B2対の不和合性因子によって支配され, 両因子の自由な組合せによって1菌株につき4種類の交配型を生ずる. また, これらの不和合性因子はそれぞれ複数の遺伝子座から構成されているため, 各座間の組換えによって新しい因子が作られる. 今回分析した15菌株のうち9菌株においてこのような組換型A因子が検出された. 組換型B因子は出現頻度が低く, わずか2菌株において検出されただけであった. これらの因子内組換型を親型と交配し相互の関係を調査したところ, 親型と同一のA因子をもつ組換型が2例見出された. このことは自然集団中に因子内組換型のものが実際に分布していることを示し, 自然集団における不和合性因子生成に関して因子内組換えが一つの原動力として働いていることを示唆するものであろう. 上記15菌株から, それぞれの交配型を代表する親型30系統 (各菌株から2系統ずつ) を選び, 各菌株間における不和合性因子の相互関係を分析した. この場合, 各菌株間に共有される因子がなければA, B両因子ともそれぞれ30ずつ存在するはずである. しかし実際には菌株間に共有の因子が見出され, 結局相異なる24のA因子と24のB因子が検出された. この数値をRaper5)の式にのせて自然集団中における不和合性因子の数を推測すると, 72のA因子と62のB因子の存在が期待される. 本研究で得た上記のデータについて, 他の研究者による類似の研究と比較しつつ考察をおこなった.

著者関連情報
© 公益社団法人 日本植物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top