植物学雑誌
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アカマツ生長点の生長と発育
I.生長点の生長周期と構造
塙 順
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1966 年 79 巻 940-941 号 p. 736-746

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抄録

アカマツ生長点の生長にともなう季節的変化を調査した. 材料は東京の林業試験場内にあって, 良好な生育を示している比較的に若い (7~8年生) 木から採取した. アカマツ生長点の生長周期は3時期に分けられる. すなわち, (1)休止期 (9月下旬より3月下旬まで), (2) 伸長期 (4月始めより6月初~中旬まで), 及び (3) 新芽形成期 (4月末より9月初~中旬まで). したがって, 翌年の伸長のための新芽の形成は, 未だ伸長が続いているときに始まる. しかし, 伸長が続行しているときに形成されるのは少数の鱗葉のみで, それらの葉腋には側芽を生じない. 葉腋に側芽 (その大部分は短枝となる) をもつ鱗葉が盛んに生産されるのは7月始めから9月始めにかけての2ヵ月間である. 実質的な新芽形成はこの期間に起る. この間に生ずる鱗葉数は, 若い生育の盛んな枝の生長点では, 150ないし250に達する. 従って平均のプラストクローンは1/3~1/4日と見積られる. 生長点の分裂組織は, (1) 頂端始原細胞群, (2) 中央母細胞群, (3) 髄状分裂組織及び (4) 周辺組織の4部分より成る明確な組織帯構造を示す. この組織帯構造は, 芽の伸長する時期に少しく明確度が低下するが, 本質的には同一の構造が生長周期を通じて持続する. しかし生長点の形と大きさは生長の各期に応じた変化を示す. 休止期には生長点は低いドーム状で, 高さと太さとの比(H/D)は約0.35である. 伸長期の前半には変化なく, 後半に至って大きさは急に増大しH/D比も上昇する. 形成期には突出した形状となりH/D比は0.52となる. 周辺組織帯の厚さも形成期には生長点の太さの増加よりも高い率で増加するため, 周辺帯の厚さと生長点の太さとの比は, 休止期の0.17から形成期の0.21へと増加する. しかし他方, 生長点の高さの代りに, 分裂組織の深さ(P)として, 生長点の先端から髄状分裂組織の下限までの距離をとって, それと生長点の太さとの比(P/D)をしらべると, この値は季節的変化を示さず, 一年を通じてほぼ一定(PD〓0.6)である. これは, 休止期に生長点が低いドーム形を取るときには, 分裂組織が内部に深く後退するためであって, このことから頂端分裂組織の実体は年間を通じて不変に維持されていると見ることができる.

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