日本臨床歯科学会雑誌
Online ISSN : 2759-1883
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矯正歯科治療中にクリックを発現後,アキシオグラフで顆頭位を修正し歯冠補綴した症例
松尾 幸一
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2024 年 10 巻 1 号 p. 134-139

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抄録
症例の概要:下顎前歯部の叢生が起因して上顎前歯部の歯内療法や補綴装置の予後を不良にすることは多い.患者は38歳,女性.7の銀歯が取れた,上顎前歯の根元にたびたび違和感がある,口を開ける時に右の顎関節が時々痛むという主訴で2010年2月来院.本症例では,下顎位や上下顎の咬合状態,トゥースポジションを矯正歯科治療で改善し,その下顎位をアキシオグラフで確認し,最終補綴装置を装着.術後10年が経過し,機能的・審美的に良好な予後が観察できたので報告する. 考察:不正咬合をともなう患者の口腔内では術前に考察した中心位のまま矯正歯科治療を進行させることは難しく,矯正歯科治療後に補綴治療によりさらに厳密に咬合関係を再構成する必要がある.咬合再構成治療において正しい顆頭位を判断するために矯正歯科治療前にアキシオグラフを使用することが望ましいと考えられる.なぜならば正しい顆頭位のもとで歯の移動量が現実的に可能かどうかを判断するほうが,歯の移動量を正確に計画できる可能性が高く,かつ歯冠補綴歯数を減らすことができる可能性が高いからである. 結論:アキシオグラフを初診時や矯正後に用いることで的確な下顎位や上下顎の歯の位置関係を求めることができ,切歯路角と顆路角を正確に再現した口腔内では予後不良とされる失活歯や残存歯質の少ない歯冠補綴歯でも延命させることが可能であると考えられる.アキシオグラフを矯正歯科治療後に使用することは,咬合再構成治療において顆頭の静的および動的な状態の確認としては重要なことであるが,矯正歯科治療の限界を補綴治療でリカバリーする側面があるため,補綴治療を行う歯数は多くなる傾向になると考えられる.
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