2013 年 2013 巻 50 号 p. 1-11
AW の指標となりうる子ヒツジが母ヒツジ(以下母)から分離した状態の617 場面の音声行動を解析した。
判別分析による判別係数の有意性検定からは,母と群対象の2 群において発声時間が異なり,その差は有意であった(P<0.05)。また,発声対象の母と発声位置別の発声時間とF2 は,発声位置によって異なり,その差は有意であった(P<0.05)。 さらには,発声対象の母と行動別の発声時間は,行動別によって異なり,その差は有意であった(P <0.05)。これらのことから,母対象の子ヒツジの発声は,発声時間と発声位置,行動形によって発声の仕方を変えていることが示唆された。
発声対象の群と発声位置別の発声時間は,発声位置によって異なり,その差は有意であった(P <0.05)。また発声対象の群と行動別の発声時間と音圧は,行動形によって異なり,その差は有意であった(P<0.05)。
子ヒツジの発声対象が群よりも母に対しての方が多い傾向が見られた理由として,母系社会で構成されるモンゴル草原のヒツジ群は,母子間の絆が長期間にわたり持続されており,子ヒツジは音声によって母への積極的な接触を行っている,または吸乳などの世話行動を惹起していると考えられる。移動・食草中,食草・移動中および食草中における母あるいは群を対象とした子ヒツジの発声時間が1 秒以上と他の行動形より長いことが明らかになった。この長い発声時間は,これらの行動中に母子が視覚的な注意を採餌に向けているため,母子は長い音声でコミュニケーションを維持しているものと考えられ,開けたモンゴル草原の環境に応じた情報を確実に伝えるための発声特性であることが示唆された。
母対象の子ヒツジの音圧は,食草・移動中に最も小さく,子ヒツジは母に対して音声の音圧を食草・移動中に明確に変えていることが明らかになった。これらの結果から,子ヒツジは行動形によって音声の音圧を変えることによって母や群に情報伝達しているが,音圧の調整の仕方は母と群によって異なっていることが示唆された。
今後,母から分離した子ヒツジが置かれた状態に関する評価と管理評価との関連性を明確にしていくことが課題である。