抄録
先天的に外陰部の発育が異常な疾患について, 発育異常と androgen receptor との関係につき検討する目的で, 外陰部皮膚組織の cytosol 及び核成分中の androgen receptor を測定した. 手術時に, 陰嚢, 陰茎包皮から生検で得た皮膚組織を homogenate 後, cytosol, nuclear extract を作製し, methyltrienolone (R-1881) を ligand として receptor を測定した. 結果は以下のごとくであった. 正常人の包皮組織を, 7歳から33歳まで検討したところ, cytosol, nuclear extract とも幼児期から思春期にかけて上昇し成人値に達する. また, 正常人の陰嚢皮膚組織を12歳から87歳まで検討した結果, 成人値はほぼ60歳までは保持されている傾向を認めた. また, congenital adrenal hyerplasia では, 肥大した陰核中の receptor 値が, cytosol, nuclear extract とも高値を示し, 逆に, 睾丸機能低下症の陰嚢皮膚組織では低値であったことより androgen receptor は内因性の androgen level に影響を受けていると考えられた. 一方, 疾患別の検討で埋没陰茎や尿道下裂の包皮組織に却いて, cytosol 中の receptor は正常対照と差を認めなかったが, 核成分中の receptor 値は正常対照に比べ低下傾向 (p<0.05) を示した. このことは, これらの疾患では, 恐らく先天的な原因によって androgen が標的細胞の核内にまで到達する過程に障害があるものと推測され, そのことが外性器の分化発育異常を惹起した可能性があることが示唆された.