Japanese Journal of Visual Science
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2019 Volume 40 Issue 2 Pages 35-36

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論文紹介

Cone Contrast Test for Color Vision Deficiency Screening Among a Cohort of Military Aircrew Applicants.

Isaac W. Chay; Shawn W. Y. Lim; Benjamin B. C. Tan

Aerospace Medicine and Human Performance Vol. 90, No. 2 February 2019

シンガポールの空軍航空機乗員志願者を対象としてアジア人における,Cone Contrast Test(CCT)の色覚スクリーニングツールとしての有用性を評価することがこの論文の目的である。Cone Contrast TestはU.S. Air Forceで全ての米空軍乗務員と志望者に対して色覚を評価するための唯一認められている機器であり,LMS錐体の機能を,錐体ごとに特化したコントラスト感度を測定することによって数値化することが可能である。シンガポールの空軍では石原表が主に使われ,石原表がFailであった者に対してランタンテストが行われることとなっており,この論文では石原表を行った全例(862例)に対してCCTを行った結果を検討している。石原表がpassでCCTのスコアがあまり良くなかった例(55–70)が8例あったが,著者はこれを軽度の色覚異常があった者と推察している。アノマロスコープ等の詳細な検査を試行していないので,“軽度の色覚異常があった者”とは結論付けられないが,仮性同色表のように検者の手際や環境光等に左右されることのないCCTが石原表に匹敵し検出精度の高いスクリーニングツールとなりうる可能性が示唆された内容となっている。海外での検査のスタンダードが変化することによって,昨今日本において変化のなかった色覚検査のスタンダードも変化する可能性が考えられる。

(田中芳樹)

Scott A. Read, Michael J. Collins, and Beata P. Sander: Human Optical Axial Length and Defocus. Clinical and Epidemiologic Research. 2010; 51: 6262–6269.

像のボケが眼軸長伸長と脈絡膜厚みの変化に及ぼす影響を検討したPreliminaryな実験

近年,近視進行メカニズムに関わる研究動向として脈絡膜厚みの変化に注目が集まっています。日内変動に関するものや(夕方ほど薄くなる),カフェインの影響(摂取後の約4時間は薄くなる)と言った基礎的な研究報告もみられますが,本著者のScottらは,光学的な焦点ボケや視線移動,調節付加と言った視機能に関わる影響が脈絡膜厚みに及ぼす変化について精力的に研究しているようです。

本論文では焦点ボケの影響に注目しており,左眼は常にピッタリ合った眼鏡度数を,右眼に1)ピッタリ合った度数(コントロール),2)わざと+3Dを合わせて近視眼に,3)わざと−3Dを合わせて遠視眼に,4)ディフューザー(光を散乱させるだけの板)を合わせた眼,と4パターンの異なる条件でそれぞれ別日に1時間過ごさせた時(何れに日も9~14時の間で)の眼軸長と脈絡膜厚みの変化を検討しました。その結果,左眼と条件1)では有意な変化が認められなかったものの,条件2)で眼軸長は短く脈絡膜厚みは薄く,条件3)4)で眼軸長は短く脈絡膜厚みは厚く有意に変化したと報告しています。つまり,網膜上に発生する焦点ボケの状態によって変化は異なり,短時間でも遠視性のボケは眼軸長伸長と脈絡膜厚みの菲薄化を引き起こし,このような状態が慢性的に続くことで近視が進行することが考えられます。また,近視性のボケはその逆の変化を起こすため近視が抑制されることが示唆されます。しかしながら,一方で単に低矯正の状態だけでは抑制効果がないことが臨床報告されており,その理論的な真偽については更なる検討が必要と思われます。

(洲崎朝樹)

SACHIN GUPTA: Visual Acuity Outcomes in Resident-Performed Manual Small-Incision Cataract Surgery. Ophthalmology. 2019年126号; 5巻: 764–765ページ

・論文についての一言コメント:白内障術後の視機能評価に参考になる論文です。

米国のレジデントの白内障手術経験数が増えるほど術後視力変化が改善するという論文です。最初の1例から100例ごとに区切り600例を越すまで7つの期間に区切って,effective visual recovery(EVR: 術前LogMAR視力-術後1か月のLogMAR視力)で評価しています。最初100例は矯正視力のEVRは0.53で,600例以上経験すると0.97でした。経験で,EVRが0.4以上よくなっています。

白内障術後視力の評価は術後3か月と思っていましたが,現代の白内障手術では1か月で十分のようです。LogMAR視力の幅0.3を意味ある区切りとして解析していました。白内障術後研究について参考になります。

(稗田 牧)

Cuenca, N., Ortuno-Lizaran, I. & Pinilla, I. Cellular characterization of OCT and outer retinal bands using specific immunohistochemistry markers and clinical implications. Ophthalmology. 125, 407–422 (2018).

網膜OCT所見解釈の挑戦者

網膜OCT画像の臨床研究にとって,組織所見解釈は重要課題である。近年の多くの臨床研究では,Spaide, Curcioによる仮説(Retina 31, 1609, 2011)が標準として使われている。しかし,この仮説には多くの反対意見があり,その中でもこの論文は異彩を放っている。主な論点は,1)網膜色素上皮(RPE)内のメラニンは光を吸収するため低輝度バンドとなる,2)interdigitation bandはRPE内phagosomeに由来し,RPE bandはRPE内ミトコンドリアに由来する,というものである。これは現行の臨床解釈のみならず,偏光OCTの解釈も真っ向から否定するものである。今後も網膜OCT所見に関する議論が続く事を考えると,臨床家および技術者にとって必読の論文と思われる。

(三浦雅博)

Yam JC, Jiang Y, Tang SM, Law AKP, Chan JJ, Wong E, Ko ST, Young AL, Tham CC, Chen LJ, Pang CP: Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% Atropine Eye Drops in Myopia Control. Ophthalmology. 2019; 126: 113–124.

東アジアを中心に世界的に近視人口が増えつつあるが,近視を予防できる確立された方法は未だない。近年,低濃度のアトロピン硫酸塩(以下,アトロピン)点眼が近視の進行抑制の方法として注目されている。この論文では4から12歳の若年被検者を対象に,0.05%,0.25%,0.01%のアトロピン,またはプラセボ点眼薬のいずれかを毎晩1回点眼し1年間の近視進行度について調査している。その結果,3種類の濃度のアトロピン点眼群の全てがプラセボ点眼群と比較して近視の進行が抑制され,その効果は濃度に依存していることが明らかとなった。またアトロピンの点眼が視力や生活上の質に影響をおよぼさないことについても確認された。

今後はさらなる詳細な検証によって最適濃度の決定,そして終了時期の検討や中断による影響を検証することで近視抑制の具体的なガイドラインの確立が期待される。

(多々良俊哉,前田史篤)

 
© 2019 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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