Japanese Journal of Visual Science
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Review Articles
An update on methods for myopia control
Kiwako Mori
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2022 Volume 43 Issue 1 Pages 1-7

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要旨

近年,近視人口が増加しており,それに伴って失明につながりうる様々な眼疾患を起こす強度近視が問題となっている。近視は環境,遺伝の複合因子により発症,進行するとされ,早期からの積極的介入が強度近視への進展の予防として重要である。近視進行予防法としては,これまで光学的,薬学的,環境的な角度から介入が試みられており,複数の研究によりいずれもが一定の効果を示している。本稿では各々の近視予防法についてそのメカニズムや成績など,最新の知見を詳述し解説する。

Abstract

Cases of myopia have recently increased, and high myopia has become a concern because it can cause various eye disorders and eventually lead to blindness. Myopia has been reported to be associated with environmental and genetic factors, and therefore, early intervention is critically important for prevention of progression to high myopia. Optical, pharmacological, and environmental approaches have been tried as preventive measures against myopia progression, and each has demonstrated a certain effect in several studies. In this review, the most updated information on the methods for myopia control is introduced with details of each approach.

はじめに

近視とは屈折異常の一つで,従来多くの近視が眼鏡やコンタクトレンズにより屈折を矯正することで良好な視力が得られることから,視力障害をもたらす疾患として認識されてこなかった。しかし近視人口は増加しつづけ,今や世界の人口の約3分の1にも達し,2050年にはさらに増えて,近視人口は全世界の約半数に,強度近視はその約10%になると推測されている1)。日本も例外ではなく,近視及び強度近視人口が増加しており,2017年の調査では2,30年前の43.5%に比べ,近視人口は中学生の95%以上にまで増加していた2,3)。また,強度近視の割合は40歳以上の5%,中学生11%であり,年齢が低下するほど増加していた3,4)。強度近視になると眼球の形状変化により,網膜剥離,緑内障・視神経症,近視性黄斑症,近視性脈絡膜新生血管症など失明につながり得る眼疾患を引き起こす5,6)。Bullimoreらの研究によると1 Diopter(D)近視が進行すると失明,近視性黄斑症,網膜剥離,緑内障を発症する可能性がそれぞれ24~31%,58%,30%,20%増加し,1 D近視を抑制することにより近視性黄斑症,網膜剥離,緑内障の発症率をそれぞれ37%,23%,17%を減少させ,近視進行抑制により発症を予防できる視覚障害があることが示された6,7)。また,近視発症年齢と近視の強度にも強い相関があり,近視の発症年齢が低いほど将来近視の程度が強くなる傾向があることがわかっている8)。これらのことより小児期のできる限り早い時期から近視進行抑制をすることによって,将来の失明につながりうる眼疾患を減少させることが重要である。最近では,近視の進行速度を遅らせるため,光学的,薬学的,環境的アプローチが有用であることが見出されており,以下に詳述する911)(図1)。

図1 

近視進行抑制治療と近視抑制率 

近視進行抑制治療と既報による屈折の近視進行抑制率(文献10より改変)

1. 光学的アプローチ

網膜の外側に焦点が合ってしまうことを遠視性デフォーカスという。この遠視性デフォーカスが眼軸長伸長を促し,近視を進行するといわれている(図2A)。様々な距離の視覚入力に対して連続して焦点を合わせることを調節といい,調節刺激が増しても調節反応量がむしろ少なくなることを調節ラグという。視距離が短くなりすぎると調節ラグが起こりやすく,遠視性デフォーカスが生じ,近視を進行させるといわれている(図2A)。また,網膜周辺で焦点が合っていないことを軸外収差といい,遠視性の軸外収差が近視進行に影響するといわれている(図2A)。光学的アプローチは主に調節ラグと軸外収差を改善するように設計されている(図2B)。

図2 

近視進行とその抑制に関する仮説 

A.調節緊張,調節ラグ,軸外収差を図示する。遠視性デフォーカスにより眼軸長が伸長し近視が進行するといわれている。 

B.調節緊張の緩和,調節ラグの抑制,遠視性デフォーカスの改善・近視性デフォーカスの形成による軸外収差改善をすることによって近視進行を抑制できると考えられている。 

1) 眼鏡

調節ラグ仮説のもと開発された累進多焦点眼鏡(Progressive addition lens: PAL)は一般的に老視矯正に使用する境目のない遠近両用眼鏡を小児用にアレンジしたものである。近見加入度を+1.5~+2.0 Dとすると調節ラグが発生しにくいと考えられ,+1.5 D加入で処方することが多い。近視進行抑制率は2年間の無作為化対照試験(RCT)で屈折21%,眼軸長は16%と報告されている12)(図3)。軸外収差仮説のもとに設計された特殊非球面レンズ(radial refractive gradient: RRG)は中心から同心円状に離れるにしたがってプラスレンズが加入されており,周辺網膜の遠視性デフォーカスの軽減を図ったものである。2年間のRCTでは屈折,眼軸長ともに近視の進行抑制効果を認めなかった13)(図3)。PALとRRGのハイブリッドであるPositively-Aspherized PAL(PA-PAL)は2年間の結果,眼軸長は抑制効果を認めなかったが,屈折は20%の抑制効果を認めている14)。最近では近視性デフォーカス理論の元,11個の同心リングを使った新しい非球面眼鏡(aspherical lenslets)についての中間報告もあり,高非球面レンズの近視抑制効果は1年間で屈折70%,眼軸長60%であった15)。今注目のDefocus Incorporated Multiple Segments: DIMSレンズは,中心部のクリアゾーンの周辺にドット状の+3.5 Dの加入微小レンズがドーナツ状に組み込まれた設計になっており,網膜の前にピントを結ぶ近視性デフォーカスによって近視進行抑制効果を示すといわれている。2年間の近視進行抑制率は屈折52%,眼軸長62%と高い抑制率が報告されている16)(図3)。

図3 

光学的アプローチとそれぞれの2年間RCTの眼軸長伸長抑制効果 

各レンズの特徴をグラフの下段に図示した。いずれも中心部が遠方用,濃い青がプラス加入を示す(オルソケラトロジーを除く)。

2) 多焦点コンタクトレンズ

多焦点ソフトコンタクトレンズは近視進行抑制効果を示すことが認められ,最近注目を集めている。多焦点ソフトコンタクトレンズには累進屈折型,焦点深度拡張型(expanded depth of focus: EDOF),非球面,同心円型がある。いずれもメカニズムはよくわかっていないが,軸外収差や調節応答量の軽減などの機序の関与により近視進行抑制効果を示すのではないかと示唆されている。2年間のRCTでの近視進行抑制率は屈折39~50%,眼軸長29~36%と報告されている17,18)(図3)。

3) オルソケラトロジー

夜間に特殊なハードコンタクトレンズを装用し,角膜中央部を扁平化することによって日中,矯正が不要となるくらい正視に近い状態にする。近視抑制のメカニズムはよくわかっていないが,軸外の遠視性デフォーカスの改善,高次収差が増大することによるものではないかと考えられている19)。近視進行抑制率は2年間のRCTで眼軸長32~63%と報告されている2022)(図3)。また,0.01%アトロピン点眼との併用で抑制効果が増強した報告もある23,24)

2. 薬学的アプローチ

1) 低濃度アトロピン点眼

アトロピンは非選択的な抗ムスカリン剤であり,瞳孔括約筋と毛様体筋のM1-M5受容体に高い親和性を示し,散瞳と毛様体筋麻痺を引き起こす。近視抑制メカニズムについては未だ解明されていないが,アトロピン点眼液が近視進行抑制効果を示すことは古くから知られていた。1%アトロピン点眼液には散瞳による羞明,近見障害,全身的副作用があり,学童の近視予防的治療として用いるには難点があった。0.01%という低濃度でも近視進行抑制効果があること,濃度依存性に効果があることが示され25),効果と副作用を天秤にかけた0.01%~0.05%の濃度で現在近視進行抑制治療を行うことが主流となっている26)(図4)。0.01%アトロピン近視進行抑制効果は,2年間で屈折15~59%,眼軸長18%と報告されている25,27)

図4 

低濃度アトロピン点眼の濃度別近視抑制効果(文献26より改変) 

A.屈折の変化 

B.眼軸長の変化 

濃度依存性に近視抑制効果がみられる。

2) ピレンゼピン

ピレンゼピンは,M1およびM4受容体に対して高い親和性を持つ選択的抗ムスカリン剤である。アトロピンと比較した利点としては,毛様体筋麻痺および散瞳を引き起こす可能性が低いことである。そのため,アトロピンの代替の近視制御治療として考えられていた。しかし,近視抑制効果がアトロピンと比較して弱いこと,調節障害とアレルギー性結膜炎がみられたため,現在臨床応用はされていない9,11)

3. 環境的アプローチ

アジア人であること,両親が近視であることという遺伝的要因が強いと近視になりやすいといわれている28)。遺伝要因を今のところ変えることはできないが,環境要因に介入することで近視進行を抑制できる可能性が生まれ,環境要因として,近業作業の増加,屋外活動の減少が近視進行につながると考えられている。2008年Roseらが,近業作業時間が長くても屋外活動時間も長ければ近視が進行しにくいことを発表し29)(図5A),屋外活動と近視に関する研究が盛んとなった。屋外活動による近視抑制メカニズムを解明することは,屋外で過ごすことにより起こりうる有害な影響を回避できる可能性があるため,屋外のさまざまな因子と近視についての関連の研究がなされている30)。その中でも光の波長に関する研究は盛んであり,さまざまな動物種で様々な波長での効果が検討されている。Tree shrewおよびRhesus monkeyでは赤色光で近視進行が抑制されるが,他の動物種では青色光で近視抑制,赤色光で近視が促進されることが明らかになっている30)。そこで赤,緑,青,紫色のどの波長が最も近視を抑制するのかマウスで実験したところ,紫光(バイオレット光:360~400 nm)で最も強い近視抑制効果あることがわかった31)(図5B, C)。さらにバイオレット光による近視制御機構は,一部の網膜神経節細胞が発現するオプシン-5(OPN5)が刺激され,近視抑制因子early growth response 1(EGR1)の発現が亢進され,脈絡膜厚が維持されるとともに眼軸長伸長が抑制されることが現時点で明らかとなっている31,32)(図5D)。

図5 

屋外活動の近視抑制効果 

A.近業作業時間が長くても屋外活動時間も長ければ近視が進行しにくい(文献29より改変) 

B.マウス近視モデルに赤,緑,青,紫色光を照射した。それぞれの色の波長を示す。(文献31より改変) 

C.マウス近視モデルによる屋外環境に含まれる可視光の各波長の近視抑制効果を示す。バイオレット光(VL)に最も大きい近視抑制効果がみられる(文献31より改変) 

D.バイオレット光の近視制御メカニズム(慶應義塾大学プレスリリースより改変) 

VL:紫色光(バイオレット光),BL:青色光,GL:緑色光,RL:赤色光,WL:白色光

1) 屋外活動

台湾では,6~7歳学童に1年間,照度計を常に身に着けさせ,屋外活動時間を増やすこと,休憩時の屋外活動,屋外授業,週末の屋外活動などの奨励を行った。屋外活動を奨励しなかった対照群と比較すると,週200分以上の屋外活動で近視の進行抑制効果がみられ,すでに近視に罹患している学童であっても,また木陰の明るさであっても,近視進行抑制効果を認めた33)。屋外活動の近視進行抑制効果は,1年間で屈折変化29%,眼軸長伸長25%であった33)

2) 屋外環境光から開発された治療

① 赤色光照射装置

波長650 nm,照度レベル約1600ルクス,光強度0.29 mWの赤色光を発する卓上型装置を用いたRCTが行われている。中間報告ではあるが,屈折眼軸長ともに近視進行抑制効果が認められている34)。残念ながら日本では入手不可能であるが,中国では10年ほど前から弱視治療に使用されている34)

② バイオレット光透過眼鏡

最近の紫外線カットの影響により,窓ガラスや通常の眼鏡は近視抑制効果の認められているバイオレット光(360~400 nm)をカットしていることが判明している32)。そのため通常のUVカット眼鏡をかけて屋外活動をしても,バイオレット光の利点も得にくいと考えられ,短波長側のUVはカットするもバイオレット光は通すというバイオレット光透過眼鏡が開発された(図6A)。2年間のRCTが行われ,その結果バイオレット光透過眼鏡は初めての眼鏡装用者及び180分以内の近業作業群において眼軸長伸長抑制効果を示し,その抑制率は21%であった35)(図6B, C)。

図6 

バイオレット光透過眼鏡による眼軸長伸長抑制効果(文献34より改変) 

A.バイオレット光(VL)透過眼鏡と通常眼鏡の波長とその透過率 

B.2年間RCTにおける屈折変化量とその推移。VL透過眼鏡群で屈折の近視化抑制の傾向がみられるが有意差はない。 

C.2年間RCTにおける眼軸長変化量とその推移。VL透過眼鏡群で有意な眼軸長伸長抑制効果がみられ,眼軸長抑制率21%であった。 

**:p < 0.01

③ 近視抑制サプリメント(クロセチン)

クロセチンは近視抑制因子EGR1の活性を増大させる食品をスクリーニングすることによって見出された(図7A)。小学生を対象とした6か月のRCTでクロセチンの効果を検証したところ,眼軸長伸長,屈折ともに近視進行抑制効果を認めた3638)(図7B, C)。また,近視の進行に伴い脈絡膜は菲薄化することが認められているが,クロセチンは脈絡膜の菲薄化を抑制することも確認された36,38)(図7D)。クロセチンの6か月の近視進行抑制効果は屈折20%,眼軸長14%であった38)。クロセチンは内服型であるため,近視矯正の必要のない弱度近視の児童から始め,またほかの近視抑制治療と併用できるところが利点である。

図7 

クロセチン内服による近視進行抑制効果 

A.EGR1をターゲットとしたドラッグスクリーニングの結果の一部。クロセチンに非常に高いEGR1活性を認める(ピンクの丸印)。黒バー:ネガティブコントロール(DMSO),黄色バー:ポジティブコントロール(PMA)(文献35より改変) 

B.6カ月RCTの屈折変化量とその推移。クロセチン投与群で有意な屈折の近視化抑制がみられた。(文献37より改変) 

C.6カ月RCTの眼軸長変化量とその推移。クロセチン投与群で有意な眼軸長伸長抑制効果がみられ,抑制率は20%であった。(文献37より改変) 

D. 6カ月後の脈絡膜厚の変化量。クロセチン投与群で有意な脈絡膜厚菲薄化抑制効果がみられ,抑制率は14%であった。(文献37より改変) 

*:p < 0.05,**:p < 0.01

まとめ

上記のエビデンスに基づき様々な治療が開発され,またこれらを複合的に活用することにより,近年近視治療は急速な進歩をみせている。近視人口の増加に伴い,眼科外来を受診する患者数もこれまで以上となり,眼科医は患者の年齢,環境,遺伝因子,要望などを最大限に考慮して最適な方法を提供すべきである。特に最近の話題では,近業作業の抑止,屋外活動時間の増加のみならず,食事やサプリメントなどのより容易かつ簡便な方法や,最新技術を投入した機器類などへの応用が待たれている。そのため,今後の近視医療の研究にはより高い水準が求められており,近視研究者にとって課題は山積している。将来の近視人口を大幅に減少させ,また強度近視がもたらす重度眼疾患を予防することが目標である。

謝辞

稿を終えるにあたりご校閲いただきました慶應義塾大学医学部眼科学教室の栗原俊英先生,鳥居秀成先生に深く感謝申し上げます。

利益相反

森紀和子(カテゴリーP)

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