Japanese Journal of Visual Science
Online ISSN : 2188-0522
Print ISSN : 0916-8273
ISSN-L : 0916-8273
Original Articles
Quantitative evaluation of the visual field using a training system for the Goldmann perimeter
Hokuto UbukataHaruo TodaKiyoshi YaoedaAkiko KobayashiKazutaka KaniFumiatsu MaedaHaruki Abe
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 43 Issue 1 Pages 8-16

Details
要旨

目的:Goldmann視野計(GP)トレーニングシステムを用いて視能訓練士と学生とが模擬患者に対して測定した視野の結果を定量的に比較し,両者の差異を明らかにする。

方法:対象は視能訓練士養成校学生8名と臨床経験5年以上の視能訓練士5名であった。GPトレーニングシステムを用いて緑内障性視野異常の模擬患者に対する視野測定を課した。V/4e,I/4e,I/3e,I/2e,I/1e視標のプロット点から視野を立体角で算出した。模擬患者の視野データと対象者が検出した視野データを重ね合わせたときの和集合の領域(UA),一致した積集合の領域(IA),一致しなかった対象差集合の領域(SDA),IAをUAで除したIntersection percentage(IP)を解析した。

結果:IAは学生の方が視能訓練士より有意に狭く,SDAは有意に広かった。IPは学生の方が視能訓練士より低かった。

結論:視能訓練士は学生に比べて視野を忠実に測定できた。

Abstract

Purpose: To quantitatively compare the visual field (VF) results measured by orthoptists and students on simulated patients using a training system for the Goldmann perimeter, and to clarify the differences between them.

Methods: Eight orthoptic students and five orthoptists with >5 years of clinical experience in ophthalmology participated in this study. The participants performed VF tests on a simulated patient with glaucomatous changes using the system. The isopter of V/4e, I/4e, I/3e, I/2e and I/1e was calculated using plot points recorded by the participant. The union area (UA), intersection area (IA), symmetric difference area (SDA) and intersection percentage were analyzed by superimposing the VF data detected by the study participants and the simulated patient’s data.

Results: IA was significantly narrower, and SDA was significantly wider in orthoptic students than in orthoptists.

Conclusions: Orthoptists more accurately measured the VF than orthoptic students.

緒言

Goldmann視野計(Goldmann Perimeter:以下,GP)を用いた視野検査の結果は検者の技量に影響され,熟練した検者において精度の高い結果を得ることができると考えられている1)。小林ら2)は,GP検査の実技指導にあたって指導内容の標準化が必要であると述べている。そのため,GP検査の結果を客観的に評価することが求められるが,GPで測定された視野は定量的評価が難しい3,4)

高橋ら5)や守ら6)は,GPで検者の視標操作と連動して稼働するパンタグラフの各部に,角度を電気信号に変換する素子(potentiometer)を組み込むことでGP検査の結果の定量的評価を試みた。またGP検査の結果をOctopus視野計に取り込み,自動計算することで両視野計での結果を比較した報告3,7,8)もある。しかしながら,これらの報告はヒトを対象として測定された視野データを解析したものであり,検者の技能評価を行う上では再現性に乏しかった。一方でSchieferら9)は,Octopus 101を用いた半自動動的視野測定の練習プログラムを開発し,模擬患者に対する動的視野測定の技能を評価した。我々10)は両者の利点を同時に満たすべく,市販のGPに後付けできるGPトレーニングシステムを開発し,種々の模擬患者に対するGP検査の練習と同時に,検者が動かした視標の動きとプロット点をデジタルベースで記録することを可能にした。

視能訓練士の経験年数はGP検査の熟練度を示す指標のひとつとして捉えられ,視能訓練士養成所指導ガイドライン11)では,視能訓練士として5年以上の実務経験を有することを臨地実習の実習指導者としての条件に挙げている。そこで本研究では5年以上の臨床経験を有する視能訓練士と,これに比較して技量に劣ると考えられる視能訓練士養成校学生(以下,学生)との間でGPトレーニングシステムを用いて測定した結果を定量的に比較し,両者の差異を明らかにした。

方法

1. Goldmann視野計トレーニングシステム

本研究で用いたGPトレーニングシステム10)では,ペンタブレット PTB-STRP1(株式会社プリンストン)のタッチペンをパンタグラフの先端に取り付け,センサーをシート状に加工して記録用紙の裏側に挿入した(図1)。さらにセンサーをGPトレーニングソフトウェアがインストールされたpersonal computer(以下,PC)に接続した。これにより,視標の位置をPCで表示した。

図1 

本システムセンサー部のセットアップ

GPトレーニングソフトウェアはVisual Basic.NET 2010(Microsoft社製,ワシントン,米国)で自作した。本ソフトウェアにより,GP検査の結果が描かれた記録用紙の画像データから模擬患者の視野データを作成した。なお,模擬患者の視野データにおける各イソプタの間は視標のサイズ,輝度に応じた感度分布を自動計算して補完した10,12)。模擬患者の視野データに対する視野測定中は,PC上の視標の位置が視野データの閾値に達するとPCからビープ音が発せられる。測定者はこのビープ音を模擬患者からの応答として捉え,タッチペンをクリックした。タッチペンをクリックすることでプロット点が記録された。

2. 対象と方法

対象は本研究への協力を得られた学生8名(男性2名,女性6名)(STU群)と臨床経験5年以上の視能訓練士5名(女性5名)(CO群)とした。各群の平均年齢±標準偏差はSTU群で22.0 ± 0.5歳,CO群で41.8 ± 17.4歳であった。

STU群は全員,GP検査に関する学内実習を計4週(正常視野に対する基本的な検査手技に関する実習を2週,異常視野に対する応用的な検査手技に関する実習を2週)にわたって履修し,さらに計6週間の臨床実習を経験した。ただし,STU群において異常視野を有する患者に対するGP検査を眼科臨床で経験した被験者はいなかった。CO群の5名の経験年数はそれぞれ7,10,11,21,54年であった。

今回は本システムを用いて,実際に臨床で測定された緑内障患者のGP検査の結果から模擬患者を作成した(図2)。対象者は,その模擬患者に対する視野測定を行った。対象者には模擬患者の情報として「矯正視力1.2の右緑内障性視野異常」であることを事前に伝えた。対象者は視野測定中,システムから発せられるビープ音を患者からの応答とみなし,タッチペンをクリックするのと同時にGPの記録用紙上にもプロット点を書き込んだ。視標の切り替えは対象者がカスタムキーボード(長野テクトロン株式会社製,長野,日本)を用いて自身の望むタイミングで行った。なお,全対象者の模擬患者に対する視野測定回数は1回のみとした。また,視野測定中は対象者でない視能訓練士がPC画面をモニタリングした。タッチペンの誤操作により生じたプロットは解析対象外のデータとし,システム上の誤作動が生じた場合は適宜対応した。本研究ではゴールドマン型ペリメータMK-70ST(株式会社イナミ社製,東京,日本),プロジェクションペリメータMT-325UD(株式会社タカギセイコー社製,富山,日本),Goldmann Perimeter 940ST(HAAG-STREIT INTERNATIONAL社製,ケーニッツ,ドイツ)を使用した。今回の解析対象は本システムを用いて対象者が測定した視野データのうち,V/4e,I/4e,I/3e,I/2e,I/1e視標のイソプタと鼻側Bjerrum暗点,下側Bjerrum暗点,Mariotte盲点とした(図2)。

図2 

本研究で課した模擬患者データとGPトレーニングソフトウェアのモニター画面 

GP検査で用いる視標はサイズと輝度で構成されている。サイズはV,IV,III,II,I,0の順,輝度は4e,3e,2e,1eの順で漸減する。模擬患者のイソプタデータ右上に追記しているのは,そのイソプタの検出に用いた視標の種類である。「V/4e」を例にとると,サイズV,輝度4eの組み合わせの視標であることを示している。それぞれ視標サイズと視標輝度の組み合わせによって,そのイソプタを検出した際の視標の刺激強度が異なるため,今回の模擬患者データのV/4eは最大刺激で測定された最小の視野感度領域,0/1eは最小刺激で測定された最大の視野感度領域を示す。また,「盲点」ならびに「暗点」は視野内で感度低下をきたした範囲を意味し,Mariotte盲点は生理的に感度が0の領域,Bjerrum暗点は緑内障性異常視野特有の感度低下した領域を示す。本システムではイソプタまたは暗点の検出に要した視標サイズと視標輝度ごとに色分けしている。

3. データ解析

本システムでは1つのプロット点につき,記録用紙上の固視点からの偏心度が水平方向と垂直方向のそれぞれで示される。そのプロット点の偏心度に関するデータを単位球面上のプロット点となるような3次元座標に変換し,視野領域を立体角で評価した。

解析例を図3に示す。GP検査における被検眼の位置を点O,固視点を点Nとし,単位球面上の任意のプロット点を点Pと点Qとしたときの球面三角形NPQについて考える。まず,本システムで記録された点Pが点Oから水平にθx [rad],垂直にθy [rad],偏心しているものとする。その際,点Pに関する3次元座標を (xp, yp, zp) としたとき,xp,ypはそれぞれ,

図3 

データ解析の概要

  
xp=zp×tanθx
  
yp=zp×tanθy

である。さらに,単位球面と仮定したことから

  
x2y2z2=1

が成り立つため,zp

  
zp=1tan2θx tan2θy1

となる。さらに点Qの3次元座標も同様に求めて (xq, yq, zq) とする。なお,三次元座標のx,y,zはそれぞれ,−1以上1以下である。次に,球面三角形NPQの点Nで成す角の弧度をα [rad],点Pで成す角をβ [rad],点Qで成す角をγ [rad] とする。αを求める方法として,まずONOPで得られるベクトル積a (xa, ya, za) とONOQで得られるベクトル積b (xb, yb, zb) を求めた。abはそれぞれ平面ONPとONQに直角であるため,abとが成す角はαと等しい。よって,abのスカラー積の関係から,両ベクトルが成す角をαとして求めた。これと同様に,βはOPOQ,γはONOQを用いて求めた。さらに半径をrとしたとき,球面三角形の表面積Sは球面三角法におけるGirardの式13)を用いて,

  
S=r2αβγ-π

となるが,今回は単位球を想定しており,半径は1であるため,球面三角形NPQの面積SNPQは,

  
SNPQ= αβγ-π

で求めた。これと同様のことを点P,Qのように隣り合う任意の2点と点Nとが成す全ての球面三角形で行い,合計値を算出することで,プロット点で構成された単位球面上の多角形の表面積を求めた。さらに,半径rの球の表面積は4πr2で求められるが,今回は4πとすることができるため立体角は,

  
S4π ×4π [sr]

で求めた。

今回は先行研究3,8,9)に倣って,模擬患者の視野データと対象者が検出した視野データを重ね合わせた(図4)ときに和集合となる領域(Union area:以下,UA)(図5),一致した積集合の領域(Intersection area:以下,IA)(図6)を立体角(平方度単位)で算出し,IAをUAで除したものをIntersection percentage(以下,IP)とした。ただし,緑内障性視野異常の鼻側階段のように視野に部分的な欠損がある場合,UAとIAだけでは視野欠損の誤検出を評価しきれないため,本研究ではUAとIAに加え,両領域で一致しない対称差集合の領域をSymmetric difference area(以下,SDA)と定義した(図7)。UA,IA,SDAのそれぞれについて,STU群とCO群で比較検討した。さらに上鼻側,上耳側,下耳側,下鼻側の各象限におけるUA,IA,SDA,IPとイソプタの検出に要したプロット数を評価した。

図4 

模擬患者の視野データと対象者が検出した視野データの重ね合わせの例 

I/4e視標による測定結果の例。緑線は模擬患者,白線は対象者が検出した視野データを示す。

図5 

Union areaの概要 

4の視野データの解析例。緑線は模擬患者,白線は対象者が検出した視野データを示す。紫の領域がUnion areaを示す。

図6 

Intersection areaの概要 

4の視野データの解析例。緑点線は模擬患者,白点線は対象者が検出した視野データを示す。赤の領域がIntersection areaを示す。なお鼻側Bjerrum暗点,下側Bjerrum暗点,Mariotte盲点では対象者が検出した領域のうち,模擬患者の視野データと一致していない領域をSymmetric difference areaとして差し引いた。

図7 

Symmetric difference areaの概要 

4の視野データの解析例。緑点線は模擬患者,白点線は対象者が検出した視野データを示す。青の領域がSymmetric difference areaを示す。なお鼻側Bjerrum暗点,下側Bjerrum暗点,Mariotte盲点では対象者が検出した領域のうち,模擬患者の視野データと一致する領域をIntersection areaとして差し引いた。

STU群とCO群のUA,IA,SDA,プロット数はMann-Whitney U testで比較検討した。また,統計解析にはエクセル統計(株式会社 社会情報サービス社,Ver. 3.00)を用い,有意水準を5%未満とした。なお,本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号18251-190808)。

結果

全象限のUAを表1に示す。全てのイソプタで両群に有意差はなかった。全象限のIAを表2に示す。全てのイソプタでSTU群の方がCO群より有意に狭かった。全象限のSDAを表3に示す。全てのイソプタでSTU群の方がCO群より有意に広かった。Bjerrum暗点ならびにMariotte盲点のUA,IA,SDAを表4に示す。UAは各領域で両群に有意差はなく,IAは下側Bjerrum暗点でSTU群の方がCO群より有意に狭く,SDAは各領域でSTU群の方がCO群より有意に広かった。なお,Bjerrum暗点ならびにMariotte盲点を検出していなかったのは,CO群では0名,STU群では鼻側Bjerrum暗点で4名,下側Bjerrum暗点で6名,Mariotte盲点で1名であった。

表1  CO群とSTU群における全象限のUnion areaの比較
イソプタ n 平均 ± 標準偏差
(平方度)
中央値
(平方度)
最小値
(平方度)
最大値
(平方度)
95%信頼区間
(平方度)
p値
V/4e CO 5 12429.35 ± 3.15 12428.39 12426.28 12432.93 12425.43–12433.26 0.830
STU 8 12438.86 ± 17.12 12427.50 12426.28 12466.22 12424.54–12453.17
I/4e CO 5 8672.89 ± 2.96 8671.47 8671.32 8678.16 8669.21–8676.56 0.524
STU 8 8673.74 ± 3.39 8671.32 8671.32 8679.06 8670.90–8676.57
I/3e CO 5 5270.70 ± 0.45 5270.54 5270.29 5271.23 5270.13–5271.26 0.831
STU 8 5271.75 ± 2.70 5270.29 5270.29 5277.73 5269.49–5274.00
I/2e CO 5 2425.73 ± 0.76 2425.28 2425.18 2426.90 2424.78–2426.67 0.922
STU 8 2428.96 ± 6.82 2425.18 2425.18 2441.07 2423.26–2434.66
I/1e CO 5 402.67 ± 16.79 408.54 372.77 411.80 381.81–423.51 0.169
STU 8 408.07 ± 0.88 407.67 407.62 410.19 407.33–408.80
表2  CO群とSTU群における全象限のIntersection areaの比較
イソプタ n 平均 ± 標準偏差
(平方度)
中央値
(平方度)
最小値
(平方度)
最大値
(平方度)
95%信頼区間
(平方度)
p値
V/4e CO 5 11996.54 ± 104.73 11975.33 11890.12 12136.80 11866.49–12126.57 0.002
STU 8 11441.99 ± 116.46 11471.09 11219.20 11571.30 11344.63–11539.35
I/4e CO 5 8253.68 ± 63.66 8245.14 8194.02 8342.11 8174.64–8332.72 0.002
STU 8 7586.80 ± 514.65 7784.36 6399.37 7990.52 7156.54–8017.04
I/3e CO 5 4927.91 ± 46.28 4937.24 4882.44 4992.41 4870.44–4985.37 0.002
STU 8 4570.79 ± 144.29 4572.86 4304.72 4798.27 4450.15–4691.41
I/2e CO 5 2165.97 ± 46.00 2147.70 2125.87 2227.41 2108.85–2223.08 0.002
STU 8 1922.52 ± 134.26 1945.56 1673.32 2081.44 1810.27–2034.76
I/1e CO 5 350.65 ± 17.08 348.71 331.87 371.69 329.43–371.86 0.006
STU 8 294.50 ± 27.75 291.44 246.47 336.17 271.30–317.69
表3  CO群とSTU群における全象限のSymmetric difference areaの比較
イソプタ n 平均 ± 標準偏差
(平方度)
中央値
(平方度)
最小値
(平方度)
最大値
(平方度)
95%信頼区間
(平方度)
p値
V/4e CO 5 432.81 ± 102.02 451.37 296.12 538.27 306.14–559.48 0.002
STU 8 996.87 ± 124.18 955.41 856.52 1247.02 893.05–1100.68
I/4e CO 5 419.20 ± 62.86 426.33 329.30 477.29 341.15–497.25 0.002
STU 8 1086.94 ± 514.10 889.73 686.84 2271.95 657.14–1516.73
I/3e CO 5 342.79 ± 46.28 333.05 278.72 388.10 285.32–400.24 0.002
STU 8 700.96 ± 146.50 697.80 472.02 973.01 578.48–823.43
I/2e CO 5 259.76 ± 45.62 277.48 199.49 300.25 203.12–316.39 0.002
STU 8 506.45 ± 138.84 479.62 343.74 767.75 390.37–622.51
I/1e CO 5 67.04 ± 13.21 71.62 47.70 79.93 50.63–83.43 0.006
STU 8 113.57 ± 27.51 116.18 71.92 161.24 90.56–136.56
表4  CO群とStudent群のBjerrum暗点ならびにMariotte盲点における各領域の比較
イソプタ n 平均 ± 標準偏差
(平方度)
中央値
(平方度)
最小値
(平方度)
最大値
(平方度)
95%信頼区間
(平方度)
p値
Union area 鼻側
Bjerrum暗点
CO 5 71.21 ± 3.10 69.17 68.83 74.75 67.35–75.05 0.324
STU 8 69.78 ± 6.83 66.64 64.53 82.09 64.07–75.49
下側
Bjerrum暗点
CO 5 67.11 ± 6.01 63.95 62.04 76.85 59.64–74.56 0.073
STU 8 57.07 ± 9.62 52.18 52.18 77.83 49.02–65.1
Mariotte盲点 CO 5 81.15 ± 3.86 79.49 78.21 87.63 76.35–85.93 0.093
STU 8 97.88 ± 24.41 92.44 73.57 153.24 77.47–118.28
Intersection area 鼻側
Bjerrum暗点
CO 5 56.61 ± 4.21 57.65 51.88 60.82 51.38–61.84 0.260
STU 8 28.49 ± 30.79 23.92 0.00 63.10 2.74–54.23
下側
Bjerrum暗点
CO 5 48.96 ± 2.68 49.41 45.23 51.87 45.63–52.28 0.012
STU 8 11.17 ± 20.96 0.00 0.00 51.08 6.35–28.68
Mariotte盲点 CO 5 69.72 ± 1.63 70.18 67.00 71.28 67.69–71.73 0.943
STU 8 60.93 ± 24.90 69.79 0.00 73.57 40.11–81.74
Symmetric difference
area
鼻側
Bjerrum暗点
CO 5 14.59 ± 5.22 13.93 8.62 21.93 8.11–21.06 0.038
STU 8 41.30 ± 25.06 44.24 13.30 64.53 20.34–62.24
下側
Bjerrum暗点
CO 5 18.15 ± 5.95 16.43 11.16 24.98 10.76–25.53 < 0.001
STU 8 45.90 ± 11.63 52.18 26.75 52.18 36.17–55.62
Mariotte盲点 CO 5 11.43 ± 3.33 10.40 9.04 17.18 7.29–15.56 0.011
STU 8 36.95 ± 25.81 27.85 10.70 79.67 15.37–58.52

全象限と象限別のIPを図8に示す。全象限,各象限で両群ともに視野感度が高い領域を測定するにつれて低下していく傾向にあったが,STU群の方がCO群に比べて常に低値を示した。

図8 

象限別のIntersection percentageの比較 

●はSTU群,○はCO群を示す。

象限別のUAを図9に示す。各象限のUAは全てのイソプタで両群に有意差はなかった。象限別のIAを図10に示す。各象限のIAはI/2eイソプタの上耳側とI/1eイソプタの下鼻側領域以外でSTU群の方がCO群より有意に狭かった。象限別のSDAを図11に示す。各象限のSDAはI/2eイソプタの上耳側とI/1eイソプタの上下鼻側領域以外でSTU群の方がCO群より有意に広かった。

図9 

CO群とSTU群における各象限のUnion areaの比較

図10 

CO群とSTU群における各象限のIntersection areaの比較 

*はp < 0.05,**はp < 0.01を示す。

図11 

CO群とSTU群における各象限のSymmetric difference areaの比較 

*はp < 0.05,**はp < 0.01を示す。

全象限のプロット数を表5,各象限のプロット数を図12に示す。全象限のプロット数はV/4e,I/4e,I/3eイソプタで,また各象限のプロット数はV/4e,I/4e,I/3eイソプタの下鼻側とI/4eイソプタの上耳側でSTU群の方がCO群より有意に少なかった。

表5  CO群とSTU群における全象限のプロット数の比較
イソプタ n 平均 ± 標準偏差 中央値 最小値 最大値 95%信頼区間 p値
V/4e CO 5 41.6 ± 3.85 41.00 46.00 37.00 38.23–44.97 0.006
STU 8 32 ± 5.15 32.50 40.00 40.00 28.43–35.57
I/4e CO 5 40 ± 2.83 39.00 43.00 37.00 37.52–42.48 < 0.001
STU 8 31.25 ± 3.2 31.50 35.00 35.00 29.04–33.46
I/3e CO 5 38.2 ± 1.64 39.00 40.00 36.00 36.76–39.64 0.026
STU 8 33.625 ± 3.5 32.50 42.00 42.00 31.2–36.05
I/2e CO 5 35.2 ± 3.11 34.00 39.00 32.00 32.47–37.93 0.127
STU 8 32.125 ± 3.68 32.00 40.00 40.00 29.57–34.68
I/1e CO 5 29.2 ± 4.09 28.00 36.00 25.00 25.62–32.78 0.584
STU 8 29.375 ± 2.83 30.00 33.00 33.00 27.42–31.33
図12 

CO群とSTU群における各象限のプロット数の比較 

*はp < 0.05を示す。

考按

本研究ではGPトレーニングシステムを応用し,視野測定の結果を定量的に評価する新たな手法を考案した。V/4e,I/4e,I/3e,I/2e,I/1e視標のいずれのイソプタにおいてもIAはSTU群の方がCO群より有意に狭く,SDAはSTU群の方がCO群より有意に広かった(表2,3)。これはGP検査の手技を習得中の学生が視能訓練士に比べて,本来検出すべきでない視野領域の過剰測定と検出すべき視野領域にもかかわらず検出できていなかった過少測定の量が双方に多かったことを示す。またBjerrum暗点(鼻側,下側)ならびにMariotte盲点のSDAはSTU群の方がCO群より有意に広かった(表4)。これは学生が暗点領域の検出を行っていなかった,または視能訓練士に比べて正確な検出が行えていなかったことを示す。小林ら14)は,臨床実習生に緑内障性視野異常に対する視標呈示の軌跡を記録用紙に描出させ,GP検査の理解度を分析している。これに関して,学生には視野異常のイメージがわかないため,異常の見落としや誤って起こりえない視野異常を作ることがあると述べている。本研究の結果もこれと同様であり,IAとSDAの評価は視野測定の技能の客観的な指標として有効であると考えられる。

眼科臨床において緑内障性視野異常は初回検査から周辺視野,中心視野ともに異常を認める15)ことが多く,GP検査ではそれらを正しく検出できる具体的な手技が要求される。今回は全象限,各象限のIPは両群ともに視野感度が高い領域を測定するにつれて低下していく傾向にあったが,STU群の方がCO群に比べて常に低値を示した(図8)。そのため,周辺視野のみならず中心視野も正確な記録ができるよう重点的に指導するべきであると考えられた。また小林ら12)は,我々と同じシステムを用いてGP検査中の視標速度を解析し,学生は視標呈示開始から一定速度で動かしていたのに対して視能訓練士は予想されるイソプタの位置に近づくにつれて減速させていたことを報告している。今回の検討においてIPの分母であるUAは両群に差がなかった(表1)。さらに,ビープ音発生時の視標速度は学生の方が視能訓練士よりも早い12)。その分,ビープ音が発せられてプロットするまでの間に視標が移動したことでイソプタが狭小化し,IAが低下したと考えられた。

UA,IA,SDAを象限別に評価すると,IAはI/2eイソプタの上耳側とI/1eイソプタの下鼻側領域以外でSTU群の方がCO群より有意に狭く(図10),SDAはI/2eイソプタの上耳側とI/1eイソプタの上下鼻側領域以外でSTU群の方がCO群より有意に広かった(図11)。また,全象限のプロット数はV/4e,I/4e,I/3eイソプタで学生の方が視能訓練士より有意に少なく,さらに象限別ではV/4e,I/4e,I/3eイソプタの下鼻側とI/4eイソプタの上耳側で学生の方が視能訓練士より有意に少なかった(図12)。以上の結果は,学生の視野異常領域へのアプローチが不足していることに起因しているものと考えられる。さらに,今回は全ての視標のイソプタで下鼻側に鼻側階段のある模擬患者に対して測定しており,I/2eとI/1eイソプタでは両群に有意差がなかったことを加味すると,学生は周辺領域では視野異常領域に対するアプローチが不足していたものの,中心視野測定に向かうにつれて視野異常領域の存在を意識した視野測定を行っていたと推察される。

半自動動的視野測定が可能なOctopus視野計では,測定者が選択した視標や指示した視標呈示方向に従って,視野計が自動で視標を呈示する。また,視野測定中の患者のreaction timeから応答時間を補正して視野を測定することができる1618)。従来のGP検査においては患者のreaction timeに加えて,患者からの応答に対する検者のreaction timeも生じる。今後,多数例のデータにより,検者のreaction timeを考慮した補正についても検討する必要があると考える。

Schieferら9)は,Octopus 101を用いた動的視野測定のシミュレーションシステムを開発し,トレーニング後に測定パフォーマンスが向上したことを報告している。本システムの大きな利点として,各種の症例データを用意することで,繰り返し様々な異常視野に対する視野検査の練習が可能10)である。また,横田ら19)は臨地実習においてGP検査を見学した学生が96.4%であったのに対し,実際に測定の経験ができたのは32.5%であったと報告している。学生が臨床の現場において実際の症例に対するGP検査の経験を積むのは難しい。また,今回は眼科臨床におけるGP検査で高頻度に対象となる緑内障性異常視野を模擬患者として検討したが,本システムではこれ以外にも各種異常視野の模擬患者データを作成することができる。そのため,本システムが視能訓練士教育で有効的に活用されることが期待できる20)

今回,我々は模擬患者に対して測定したGP検査の結果を定量解析した。本研究の限界としては両群におけるサンプルサイズが少ないことが挙げられるため,今後多数例での検討を行っていく。また,システムに記録された視野測定中の視標の軌跡や速度,検査結果等を加味した採点システムについても検討していきたい。

謝辞

本研究は,科研費 19K20739の助成を受けた。

利益相反

利益相反公表基準に該当なし

文献
 
© 2022 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
feedback
Top