抄録
【目的】ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG-CSF)は,顆粒球造血前駆細胞(CFU-G)に働くと共に,好中球の機能にも様々な影響を与えることが報告されている.本研究では,臨床応用されている構造および生産方法の異なる3種のrhG-CSF(nartograstim, lenograstim, filgrastim)を用い,ヒト末梢血CD34+細胞の成熟好中球への分化誘導活性と誘導好中球の貪食能及びX線照射によるCFU-Gの生存率に対する作用を比較検討した.
【方法】献血由来バフィーコートより,磁気ビーズ法によりCD34+細胞を高度に分離精製した.CD34+細胞をrhG-CSF存在下無血清液体培地で14日間液体培養を行い,好中球への誘導率及び非照射とX線照射(2Gy)好中球の貪食能を測定した.CFU-G の定量及び生存率の測定は,rhG-CSFを含むメチルセルロース培養法で行い,14日間培養後細胞50個以上からなるコロニーを計数して求めた.
【結果・考察】CD34+細胞CFU-G由来コロニーは,いずれのrhG-CSFにおいても濃度に依存して増加が見られ,50ng/mlを超えるとプラトーに達した.以降の実験は100 ng/mlで行った.Nartograstimは,lenograstim及びfilgrastimに比べ照射・非照射に関わらず有意に好中球の誘導を促進した.一方,非照射と照射いずれの好中球においても,rhG-CSFによる貪食能への有意な影響は認められなかった.またいずれのrhG-CSFもCFU-Gの生存曲線に影響しなかった.本研究で用いた3種類のrhG-CSFにおいて,ヒト末梢血CD34+細胞から好中球への誘導率に有意な差が生じたことは,製剤投与後の体内での動態や好中球の機能を考えるうえで重要な示唆を与えると考えられる.