抄録
イソチオシアネート(ITC)類は特異な官能基(-N=C=S)を有する化合物の総称で、アブラナ科植物に含まれる刺激性の強い香味性成分である。ITC類はがん予防効果が報告されているが、そのメカニズムは明らかではない。ITC 類の一つであるbenzyl isothiocyanate (BITC)は解毒酵素誘導作用から発がん抑制効果があると報告されている。また、BITCは細胞周期依存的にアポトーシスを誘導することも報告されており、癌治療薬としての可能性が示唆されている。
今回我々はBITCの放射線増感効果について2種類のヒト膵臓癌由来細胞MIA PaCa-2とPANC-1を用いて検討した。BITCと放射線の併用効果についてはMIA PaCa-2細胞では濃度依存的に放射線増感効果が観察され、PANC-1細胞では放射線増感効果は小さかった。また、放射線とBITCの併用により、MIA PaCa-2細胞ではアポトーシス数の増加が見られた。そのため、アポトーシス関連タンパク質の発現量を調べたところ、MIA PaCa-2細胞ではPARPの断片化が見られ、PANC-1細胞では観察されなかった。このことからMIA PaCA-2細胞のBITCによる放射線増感にはアポトーシスの増強が関与していることが考えられる。Bcl-2とBaxの発現量には変化が見られず、このアポトーシスの増強にはBcl-2とBaxは関与していないことが示唆される。Caspase活性化因子であるApaf-1の増加が観察され、BITCはp53非依存的にアポトーシスを誘導すると考えられる。これらの結果より、BITCは癌細胞で亢進している抗アポトーシスシグナルを抑制し、アポトーシス促進因子の発現を増強することにより、放射線感受性の増強を引き起こすと考えられる。