抄録
これまでに我々はがん抑制遺伝子p53を放射線療法の先行指標として注目し、基礎研究をすすめてきた。その成果として、p53が正常に機能している場合に比べて、p53の機能を失った場合は一般的に治療に用いられているX線に抵抗性であることを培養細胞レベルおよび移植腫瘍レベルで報告してきた。さらに、温熱単独およびX線と温熱の併用でも同様の結果を得ている。これらのことは、p53が多くのがん治療の先行指標になること、さらに、正常型p53の患者さんにこれらのがん治療は適しているが、p53の機能を失った患者さんには適していないことを示唆するものである。そこで、次に我々は、悪性腫瘍の半数とも言われるp53の機能を失った難治性のがんに対する治療効果向上のため、重粒子線治療に注目した。その結果、高LET放射線がX線に比べて、がん細胞に高い殺細胞効果ならびにアポトーシス誘導をもたらすことを確認した。このことはこれまで治療効果が望めなかったp53の機能を失ったがん細胞をもつ患者にも、重粒子による高LET放射線照射は有効性が期待できる。しかしながら、重粒子による高LET放射線照射装置は世界にも数台に限られている。また、治療における経費も高く、多くのがん患者さんがこの装置の恩恵を受けることは困難である。そこで次の段階として、高LET放射線によるp53非依存的なアポトーシス誘導メカニズムを解明することで、p53非依存的なアポトーシス誘導の鍵となる遺伝子やタンパク質の発現を調節することが可能となれば、従来のX線によるがん治療を工夫することで、p53の機能を失った難治性のがん治療効果を、これまで以上に高めることができるものと考えている。