抄録
放射線教育の中での放射線物理教育は,基礎教育か専門教育かによって目的,内容は異なるが,課題・問題点には共通のことが多く,徳島大学の現状を基に考えてみる。
徳島大学での医療系放射線教育は医学部医学科,保健学科および歯学部歯学科で行われている。放射線物理の講義は,保健学科の放射線技師教育専門科目以外は,放射線関連科目の授業の一部として看護・検査分野では放射線衛生学の中で,医学科では放射線概論また歯学科では歯科放射線学の中で2~4時間行われている。2)医学科・歯学科での講義は,放射線の定義・種類・発生,光子と物質との相互作用,X 線・粒子線の性質,計測などの基礎項目を学習し,放射線の基礎的性質を理解する。放射線生物学・管理学・治療学などの理解に必要な項目の初等学習レベルであり,これは保健学科の基礎教育でも同様である。3)放射線に対する学生の先入観は,放射線はよく分からないが危険であるということで,放射線の実際の現象を知らない。そこで,放射線は取り扱いさえ誤らなければ危険は少ないということを知るために,放射線(特にX線)の性質を十分に講義し理解させることが必要である。物理は難しいという先入観もある。4)放射線物理教育の難しさは,放射線は物質との相互作用を通してしかみることができないため,放射線を用いた講義実験が簡単に行えないこと,原子(核)を実際に見せることができないことにある。高等学校時代に物理の講義を十分に受けていない学生も多く,物理の基本が分からずついて行けないこと,物理は難しいと考えていることなども課題である。5)課題の一つは,放射線現象などを見せながらの講義ができないことであり,放射線に関連する現象を目で確認できるような資料の作成が望まれる。また,放射線の吸収測定や環境放射線の存在を知る実習など有効であろう。授業時間が少ない中で放射線物理教育の効果的な実施が求められる。