抄録
重イオンビームは線量集中性に優れており、放射線抵抗性のがん細胞にも効果が高いことから、がん治療の有効な手段として期待を集めている。その一方、重イオンビームと薬剤との併用による集学的治療についての研究は少ない。本研究では、がん分子標的治療の潜在的な候補として期待されているテロメラーゼの機能阻害に着目し、テロメラーゼ阻害剤であるMST-312と重イオンビームの併用効果を調べる。【方法】ヒト子宮頸癌由来細胞(HeLa)を照射7日前にシャーレに播き込み、照射3日前に培地を交換し、照射24時間前にMST-312を0-10 μMの最終濃度となるように添加した。炭素イオン(LETは110 keV/μm)あるいは60Coガンマ線を照射した後、細胞を回収し、MST-312非存在下で再播種した。照射から14日後に細胞を固定・染色し、50細胞以上からなるコロニーを生存細胞由来として計数した。【結果と考察】5 μMより高濃度のMST-312を処理したHeLa細胞はコロニーを形成できなかった。1 μMのMST-312の照射前処理により、HeLa細胞の生存率は照射単独群と比べて相加的に低下したが、その程度は、炭素線やガンマ線の線量に依存しなかった。このことから、MST-312と放射線は、それぞれ独立した機序で細胞の生存率を低下させている可能性が考えられた。HeLa細胞の生存率を10%に低下させるために必要な炭素線あるいはガンマ線の線量は、MST-312の併用により、それぞれ1.2 Gyから0.5 Gy、5.4 Gyから4.0 Gyに減らすことができた。今後は、阻害剤の処理と炭素線照射のタイミングを再検討し、がん細胞殺傷効果の相乗的な増強を目指したい。