抄録
【背景・目的】線量率効果は放射線の健康リスクを明らかにする上で非常に重要な現象である。しかし、その誘導メカニズムは明らかにされていない。我々は線量率効果の誘導メカニズムを次のように考えた。線量率は単位時間あたりの線量を意味する。従って、低線量率では単位時間あたりに生じる損傷が少なくなると考えられる。また、目的の線量に達するまでに時間がかかるため、その間に損傷と修復が繰り返し生じていると思われる。よって、低線量率では生物学的影響の誘発頻度が抑制されるのではないかと考えた。そこで、本研究ではこの可能性を検討することを目的とした。【結果・考察】まず、40~80 mGyのX線を一回照射した場合と30分毎に20 mGyを繰り返し照射していった場合で生成されるDNA初期損傷の数に差が生じるかをリン酸化ATMフォーカスを指標として検討した。その結果、繰り返し照射した方がフォーカス数の生成が抑制されることが分かった。次に、30分毎の繰り返し照射の間にDNA初期損傷の修復が起きているかどうかを検討するためにDNA 初期損傷の修復・時間関係を調べた。そして、このDNA損傷・修復モデルから、30 分毎に 20 mGy を 2~4 回繰り返し照射したと仮定した際に、理論上、何個のフォーカスになるのか計算した。その結果、2 回では 1.47 個、3 回では 2.18 個、4 回では 2.84 個となった。しかし、実際には 2 回で 0.76 個、3 回で 0.69 個、4 回で 0.72 個となり、理論値とは異なった。よって、30分毎の繰り返し照射では損傷の蓄積も修復も生じていないことが分かった。したがって、線量率効果のメカニズムはDNA損傷・修復モデルから単純に説明できないことが明らかとなった。