日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: P2-75
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放射線応答・シグナル伝達
放射線適応応答に相関する遺伝子発現変動
*根井 充柿本 彩七中島 徹夫王 冰
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抄録
あらかじめ低線量放射線で細胞等を処理することにより、その後の高線量放射線に対する抵抗性が誘導される。このいわゆる放射線適応応答の分子機構は、これまで主として阻害剤を用いて研究されてきたが、最近はマイクロアレイ技術を用いて放射線適応応答条件下で特異的に発現変動する遺伝子が網羅的に調べられるようになり、PARP1、p27Cip/Kip、HSP25,70、PBP74、CDC16, STAT1/3等、放射線抵抗性の誘導に直接機能する実行因子の他、p53、PKC、MAPK、NO、増殖因子等、初期刺激(おそらくDSBと考えられている)と実行因子をつなぐ架け橋の役割を果たすと考えられる多くのシグナル因子が明らかにされてきた。しかし、得られている知見はまだまだ断片的であり、今後も引き続き放射線適応応答に関与する因子を探索しつつ、蓄積する知見を整理し、多様な放射線適応応答の機構を実験系ごとに解きほぐしていく必要がある。我々は昨年度マイクロアレイ解析を行い、ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1におけるHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答にdeath inducer-obliterator 1(DIDO1)遺伝子が関与している可能性を示唆した。DIDO1はM期のチェックポイント制御に機能しており、また最近長崎原爆被爆者において被爆距離依存的に有意に高い発生率が報告された骨髄異形成疾患(MDS)の原因遺伝子であると考えられていることから、低線量放射線のリスクを検討する上で大変興味深い。今年度はマイクロアレイの解析を更に進め、放射線適応応答条件下で統計的に有意に変動する遺伝子の機能分類を試みた。その結果、AHH-1における突然変異を指標とした放射線適応応答には、“centrosome”、“metal ion binding”、“nucleoside biosynthesis”、“protein dephosphorylation”、“mitochondria”等に関わる細胞機能が関連していることを示唆した。
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© 2009 日本放射線影響学会
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