抄録
マウスの放射線感受性は臓器や照射時のageに依存し、マウスの肝癌の発症率は、生後0―7日目に照射を行うと最も高くなる。本実験では、肝癌発症を指標としたageによる放射線感受性の違いを、遺伝子発現変動によって説明することを目的として、網羅的遺伝子解析を行った。具体的には、生後7日目に3.8Gyの全身照射を行ったマウス群(肝癌高発)と、10週令で3.8Gy照射したマウス群(肝癌低発)、および非照射のマウス群の3群それぞれを、癌の発症率を低下させることが知られているカロリー制限を行った群と通常飼育群に分けた。これら6群のマウスについて10ヶ月令の時点で肝臓の遺伝子発現レベルを調べた。マイクロアレイ解析とRT-PCRの結果、生後7日目に照射したマウスの肝臓で、3つの遺伝子の発現変化を見つけることができた。3つの遺伝子のうち、2つの遺伝子発現レベルは増加し、1つが減少していた。10週令で照射したマウスの肝臓でも同じような遺伝子発現変化を示したことから、この3つの遺伝子の発現変化は癌化に関係しているとは考えられず、3.8Gy照射の影響ではないかと推測された。また、照射後カロリー制限を行ったマウスの肝臓における3つの遺伝子の発現変化は、2つの遺伝子では放射線による遺伝子発現変化を抑制する傾向を見せ、1つの遺伝子では影響を与えず、単純な解釈のできる結果ではなかった。今回の実験から、肝癌発症を指標としたageによる放射線感受性の違いを説明できるような遺伝子発現変化は見つけられなかった。しかし、放射線を照射した後長期経過しても、発現レベルの変化が見られる3つの遺伝子を見つけることができた。