抄録
【目的】焦電結晶は自発分極しており表面が帯電しているが、空気中に置いておくと電子やイオンが表面に吸着されて電荷が中和される。温度変化により焦電結晶の自発分極は変化するため、焦電結晶の温度を変化させると補償電荷が結晶表面に残り、その電荷によって高電圧が発生する。これを利用すると、小型の放射線源を作製できる。これまでの研究で、電子、イオン、X線、中性子の発生が認められているが、放射線源として制御するパラメターについてはあまり報告されていない。今回、我々は、焦電結晶表面から放出される電子の特性を、真空度と温度傾斜率をパラメターとして調べた。
【方法】焦電結晶としてLiTaO3単結晶(z-cut, 10 mm×10 mm×0.5 mmt)を用いた。LiTaO3単結晶を+z方向が表面になるようにアース電位の銅板に固定した。表面から約4.8 mmの位置にコレクタ電極を配置し、電極にピコアンメータ(Keithley 6485)を接続した。真空度は15から25 Pa、温度傾斜率(温度の時間変化)は最大2.0 K/sまで変化させた。温度は室温から約120°Cまで変化させ、その間に放出される電子電流を測定した。
【結果と考察】焦電結晶表面からアースに向かってパルス状の電子放出が起り、発生した電子電流は100μA程度、放出持続時間は1 ms程度であることがわかった。これは、温度変化によって焦電結晶表面に現れた補償電荷がアース電位との間で高電圧を発生し、発生電圧が真空の耐電圧を超えると結晶表面の電荷がアースに放電したためと考えられる。真空度に関しては、15 Paのときは電子放出がほとんど起こらず、真空度が低く(圧力が高く)なるに従い、単位時間あたりの電子放出回数が増加することがわかった。これは、真空度が低くなると、真空の耐電圧が低くなるためであると考えられる。また、温度傾斜率に関しては、温度傾斜率が高いほど、単位時間あたりの電子放出回数が多くなることがわかった。これは、単位時間あたりに結晶表面に現れる補償電荷が増加したためと考えられる。