日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
セッションID: W3-1
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細胞核からみた放射線病態学
ゲノム修復機構と染色体転座
*田代 聡
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抄録
放射線や一部の抗がん剤などによるDNA損傷の修復エラーは、染色体転座を誘導し遺伝情報を改変することで、細胞のがん化に関与している。DNA損傷シグナル制御因子ATMの欠失やそのリン酸化酵素活性異常は、染色体転座の頻度を上昇させる。一方、一部のがん細胞などで認められる組換え修復関連タンパク質RAD51の過剰発現も、染色体転座形成を促進することが知られている。しかし、これらのゲノム修復関連因子が染色体転座形成にどのように関与しているのかは未だ不明な点が多い。
11q23に染色体転座切断点を持つ白血病は、トポイソメラーゼII阻害剤エトポシドの治療後に発症する二次性白血病で最も多く認められる。我々は、エトポシド処理後のATM欠失細胞では、RAD51が11q23染色体転座切断点集中領域であるMLL遺伝子座BCR領域に過剰に結合していることを明らかにした。AT細胞では、損傷DNAへのRAD51の結合に先行するとされるRPAや、RPAとRAD51の交換を促進するとされるクロマチン構造変換因子INO80も、BCR領域へ過剰に結合していることを確認した。これらの知見から、ATMは、DNA損傷シグナルの制御以外に、組換え修復関連タンパク質が染色体転座切断点集中領域に過剰に結合することを阻止することで染色体転座の形成を抑制していることが示唆された。染色体転座形成におけるゲノム修復機構の異常制御について討論したい。
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© 2009 日本放射線影響学会
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