抄録
紫外線、化学物質、放射線などによって生じるDNA損傷に対して、細胞は、チェックポイント機構を活性化させることにより細胞周期の停止を促す。その間に細胞は、DNA損傷を修復するか、あるいはアポトーシスによる細胞死を実行するか、のいずれかを選択し、染色体の安定性を維持している。DNA損傷におけるクロマチン構造変換は、修復因子やチェックポイント蛋白質がDNAにアクセスするために必要と考えられているが、その分子機構や役割については未だ不明な点が多い。我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素がユビキチン結合酵素UBC13と複合体を形成し、ヒストンH2AXを損傷クロマチンから放出させることを見出した。このH2AXのクロマチンからの放出は、損傷領域におけるクロマチン構造変換機構の一旦を担っていると考えている。興味深いことに、損傷依存的なH2AXのクロマチンからの放出はH2AXのアセチル化に依存しており、これまで報告されているH2AXのリン酸化には依存しない。さらに我々は、TIP60によるH2AXのアセチル化が、NBS1やATMのDNA損傷依存的なクロマチンへの誘導に必要であることを明らかにした。これらのことから、我々はH2AXのクロマチンからの放出の役割の一つは、センサー蛋白質であるNBS1を損傷クロマチンへ誘導し、DNA損傷応答シグナルを活性化させることではないかと考えている。今回は、アセチル化によって制御されるヒストンH2AXのクロマチンからの放出がチェックポイント活性化シグナルといかなる関わりを持つかについて最新の知見を紹介し、ヒストンの化学修飾のDNA損傷応答シグナル活性化における役割について議論したい。