抄録
【目的】我々は放射線耐性を理解し、より有効な放射線療法を開発する目的で、複数の細胞株から臨床的放射線耐性細胞株の樹立を目指し、成功した。これらの耐性細胞は標準的な放射線療法である2Gy/dayのX線を照射し続けても増殖する。本研究では、放射線耐性細胞を効率よく死滅させることのできる抗がん剤また放射線耐性と交叉耐性を示す抗がん剤のスクリーニングを行い、そこから放射線耐性のメカニズムを知るきっかけを得ようと試みた。
【方法】HepG2、HeLa、SAS、KB、H1299およびそれらの派生株である放射線耐性細胞HepG2-8960-R、HepG2-R、HeLa-R、SAS-R1、SAS-R2、KB-R、H1299-Rを解析に用いた。抗がん剤のスクリーニングには、シスプラチン(CDDP)、ドセタキセル(DOC)、ブレオマイシン、フルオロウラシル(5-FU)、ビンクリスチン、エトポシド(VP-16)、アドリアマイシン(ADM)を用いた。抗がん剤感受性はHigh-density survival assayにより検出した。さらに、RT-PCR法によりMDR1の発現を解析した。
【結果】5-FUは、全ての放射線耐性細胞に有効であった。また、7株中6株の放射線耐性細胞でDOCとビンクリスチンに交叉耐性がみられ、7株中4株の放射線耐性細胞でVP-16とADMに交叉耐性がみられた。MDR1の発現は、HepG2に比べてHepG2-8960-Rで高かった。
【考察】本研究で解析に用いた臨床的放射線耐性細胞株の多くが、DOC、ビンクリスチンおよびADMに交叉耐性を示したことから、臨床的放射線耐性細胞はMDR形質を獲得していることが示唆された。このことは、RT-PCRの解析結果からも裏付けられる。また、今回解析に用いた全ての臨床的放射線耐性細胞がDNAの2本鎖を誘発するブレオマイシンに交叉耐性を示さなかったことから、臨床的放射線耐性にはDNA 2本鎖切断の修復系亢進というよりは、別の機序が関与している可能性が示唆された。