抄録
細胞遺伝学的線量評価法は、最も信頼のおける生物学的線量評価法として広く用いられている。しかしながら、細胞の持つDNA損傷修復能により、初期に生成したDNA二重鎖切断は再結合されて検出できなくなり、誤修復の結果生成した二動原体染色体や転座型染色体等の染色体異常が、被ばく線量評価の指標として測定される対象になる。このことが、細胞遺伝学的線量測定法の感度を下げる要因となるため、生じたDNA二重鎖切断数を分裂中期染色体上で評価できる技術が望まれている。
近年、放射線により誘導されたDNA二重鎖切断が、ATMの活性化と引き続くリン酸化を介して、DNA損傷応答因子の局所的リン酸化と集積を誘導することが明らかになった。これら、DNA損傷応答因子の集積は、顕微鏡下で可視化できるサイズのフォーカスを形成する。我々は、DNA損傷応答因子のフォーカスの中でも、リン酸化H2AXおよびMDC1フォーカスが分裂期でも維持されることを見いだしたことから、これらDNA損傷分子マーカーが細胞遺伝学的線量推定法に応用できるのではないかと考えた。特に、リン酸化H2AXのフォーカス数は、被ばく線量に応じて直線的に増加し、推定されるDNA二重鎖切断数に対応することが多くの研究により報告されていることから、リン酸化H2AXフォーカスを染色体上で検出する手法の確立を検討し、照射直後に検出される染色分体型切断部位の95_%_以上で、リン酸化H2AXフォーカスを検出する技術を確立した。本発表では、この技術の次世代線量評価への応用について議論する。