日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W5-4
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ワークショップ5. 生体組織に対する低線量(率)放射線影響の解明に向けて
低線量率γ線連続照射マウスにおける放射線応答機構の解析
*杉原 崇村野 勇人山内 一巳一戸 一晃田中 公夫
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抄録

【目的】中線量率[400 mGy/22h/day (18.2 mGy/h)]γ線を1-40日間連続照射したマウスでは、p53依存的に白血球数の減少が生じることを以前報告したが、低・中線量率γ線連続照射による生体内血清中の生理活性物質への影響はほとんど調べられていない。本実験ではマウスから血清を採取し、低・中線量率γ線連続照射による血清中の生理活性物質への影響について解析を行った。 【方法】血清中の因子の生理活性の判定には、マウス胎仔線維芽細胞(MEFs)に照射マウス由来の血清を添加し、MEFsでの遺伝子発現量を指標とする方法(cell-based-assay)を用いた。中線量率γ線を(10日間及び20日間)連続照射した群のマウス血清の添加による遺伝子発現と同日齢の非照射群マウスから採取した血清添加による遺伝子発現とを比べ、2倍以上遺伝子の発現量に差のある遺伝子群を遺伝子発現パターン解析に用いた。また、低線量率[(20 mGy/22h/day (0.91 mGy/h)]γ線を400日間連続照射したマウス血清も用いた。【結果と考察】MEFs中で2倍以上の発現量差がある遺伝子として、中線量率γ線を10日間照射(集積線量4 Gy)したマウスの血清では613個の遺伝子が、20日間の照射群(集積線量8 Gy)では1202個の遺伝子が検出された。20日間の照射で発現量差の見られる遺伝子群について遺伝子発現経路解析を行ったところ、カベオリンシグナル経路とインシュリンレセプターシグナル経路の活性化が見られた。また、抽出された遺伝子群は脂質代謝や循環器系疾患に関係する遺伝子群と発現パターンの類似性が見られた。抽出された遺伝子のうち高線量率γ線照射による影響が報告されているLipocalin2に注目し、中線量率照射(集積線量8 Gy)したマウス血清中の実際の含有量を測定したところ、非照射群と比較して有意に減少していた。一方、400日間低線量率γ線を連続照射(集積線量8 Gy)したマウス血清中のLipocalin2量に関しては中線量率照射で見られるような減少は見られなかった。これらの結果から、中線量率γ線を連続照射したマウスの血清中では、生理活性物質量や質が変化し、生体内で代謝系などに放射線応答変化を引き起こしている可能性がある。(本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。)

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© 2011 日本放射線影響学会
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