抄録
福島第一原子力発電所の事故は、「想定外」と弁解された原子炉のコントロールの問題とは別に、環境汚染が引き起こした放射線被ばくにいかに対応するかで、放射線影響・防護の専門家につきつけられた歴史的事故となった。初期に対応すべき確定的影響を抑えこむという点からは成功したといえるが、低線量における小児甲状腺疾患のリスクを適切にコントロールできたか、計画的避難区域という新しい「避難」の考え方に社会は適切に対応できたのか、食品汚染のコントロールのやり方は適切であったのか、低線量放射線被ばくの住民不安にどう対応すべきなのか。多くの放射線被ばくに関係した問題が従来放射線の専門でない学術研究者を巻き込んだ社会問題ともなった。これらの問題を検証しながら、私たち放射線の専門家に事故に際して何が求められたのか、また今後、何が求められているのかについて考える。