抄録
XファミリーDNAポリメラーゼは、DNAポリメラーゼベータ(pol beta)、DNAポリメラーゼラムダ(pol lambda)、DNAポリメラーゼミュー(pol mu)から構成され、DNA修復反応時に、損傷し欠失したDNAを合成する。pol beta及びpol lambdaは、塩基除去修復に機能し、pol lambda及びpol muは、DNA二本鎖切断修復機構である非相同性末端結合(NHEJ)に機能すると考えられている。多くのDNA修復関連タンパク質は、DNA損傷時に損傷部位に集積する性質を示す。pol beta及びpol lambdaもまた、DNA損傷部位へ速やかに集積することが示されている。しかし、pol muのDNA損傷部位への集積機構は不明であった。我々は、pol muのDNA損傷部位への集積機構を解析し、レーザーで導入したDNA損傷部位への迅速な集積を生細胞タイムラプスイメージングを用いて明らかにした。pol muは、pol betaが集積を示すような一本鎖DNA切断部位や塩基損傷部位への集積を示さなかったことから、DNA二本鎖切断部位へ特異的に集積していると示唆された。また、pol mu内のDNA損傷部位への集積に機能する領域を同定するために、pol muの欠失変異体を用いてDNA損傷部位への集積を観察した。その結果、BRCTドメインを含むN末端領域、pol beta様領域を含むC末端領域のいずれも、DNA損傷部位へ集積することが示された。しかし、完全長pol muに比べ、集積の遅延や集積量の減少が観察された。pol muは、BRCTドメインを介してKu80と結合することが示されている。Ku80欠損細胞を用いてpol muの集積を解析したところ、pol muのN末端領域はKu80依存的に損傷部位へ集積したが、C末端領域の集積はKu80に依存していなかった。一方、pol muのC末端領域は、PCNAと結合することがin vitroで示されている。我々は、DNA損傷導入後の細胞内でpol muとPCNAが結合することを免疫沈降法によって明らかにした。さらに、PCNAをノックダウンした細胞ではpol muの損傷部位への集積が減少した。これらの結果から、pol muは、Ku80及びPCNAとの結合を介して損傷部位へ集積すると考えられる。