完全人工心臓置換動物においてしばしば経験される中心静脈圧の上昇という現象についてその成因を静脈系の諸因子から正常動物との比較において検討した。山羊を用いて行った実験では, AH山羊では正常山羊に比較して術后, 中心静脈圧, 平均充満圧, 静脈還流抵抗などが上昇し, 静脈コンプライアンスの増大が観察されたが循環血液量には著しい差はみられなかった。これらのことからAH山羊では術后静脈系が過緊張状態にあることが推測された。また, 正常動物について中心静脈圧と心拍出量の関係をみると安静定常状態では両者の間にいわゆるスターリングの法則とは逆の相関々係が観察され中心静脈圧が心拍出量の示標とはなっていないことを示した。
これらの結果は心拍出量のみによっては生体制御, 特に静脈系の制御が充分行い得ないことを示すものと考えられ, 今后その制御因子の検討の必要性が指摘された。