抄録
人工血管移植後の開存性を左右する因子は, 生体側のみならず, 使用する人工血管側にも多くみとめられる。移植直後よりみられる生体の反応, なかでも初期の血栓付着を抑えることは, その後の仮性内膜形成に好結果を与えるものと考えられる。そのために人工材料の改善が種々なされているが, 抗凝固剤を固定したり, 血管内皮細胞を人工血管内面にはりつけるなど, 複雑な手技, 技術が必要とされる。我々は, フィブリン糊がhigh porosityの人工血管においても完全にpreclottingの代用をはたし, ヘパリン使用下にも人工血管壁からの血液漏出のないことから, フィブリン糊にヘパリンを添加して人工血管を処理し, 移植後早期にみられる人工血管内面の状態を観察した。その結果, 全身性にヘパリン投与を行わなくても, ヘパリン添加フィブリン糊は, 人工血管内での血栓形成を抑え, 最長5ケ月にわたる観察で, ヘパリンを加えない場合に比べて, 内腔狭窄の程度を減少せしめえた。