1986 年 15 巻 6 号 p. 1936-1940
教室では, 無血充填体外循環で, 体外循環終了時, 回路内残留血液をhemoconcentrator (H-C)にて濃縮し, 体外循環開始前に脱血した自家血とともに患者に還元する方法にて, 術中, 術後一貫して同種血液を輸注しない無輸血開心術(I群)12例を経験した. 同種血輸血症例(II群)12例を対照として, 本法の有用性と安全性について臨床的検討を加えた. 血清肝炎の発生率はI群で有意に低く(0%vs. 41.7%), 腎機能, 止血, 凝固能および血漿膠質浸透圧は術後両群間に差がみられなかった. I群のヘマトクリット(Ht)は術後7日目, II群と有意差が消失するまで回復し, 血小板の回復はI群でより早く, 術後のBUNもI群でより低かった. 本法は輸血後肝炎の防止はもとよりHtの回復, 腎機能および止血機能の面で安全性が確認され, 同種血輸血反応による蛋白異化の防止や血小板機能温存の面で有利と考えられた. しかし, H-Cは溶血が高度の症例に対しては問題が残ると思われた.