日本細菌学雑誌
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平成22年黒屋奨学賞受賞論文
ピロリ菌の胃粘膜感染と宿主応答機構
鈴木 仁人
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2010 年 65 巻 2 号 p. 289-296

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抄録

ピロリ菌感染症は世界で胃潰瘍,胃癌など胃関連疾患の主たる原因となっている。本邦は世界でも有数の胃癌大国であるが,その原因としてピロリ菌の感染率の高いことが挙げられている。経口的にヒト体内に侵入したピロリ菌は,胃酸に抵抗し,胃粘膜上皮細胞に付着して増殖することができる。近年,ピロリ菌が種々の病原因子を介して,胃粘膜の上皮細胞や免疫細胞の恒常性を脱制御し,疾患発生のリスクを高めることが明らかとなってきた。ピロリ菌の主要な病原因子であるCagAタンパク質はIV型分泌装置を介して胃粘膜上皮細胞に注入され,様々な宿主因子と結合することにより宿主シグナル伝達系を攪乱する。CagAの惹起する細胞増殖・炎症促進などの宿主応答は,ピロリ菌の胃粘膜への持続感染を促進させ,胃発癌のリスクを高めるものと考えられる。本稿では,CagAの宿主細胞に対する新たな作用メカニズムとピロリ菌の持続感染に寄与する新たな役割に関して解説し,本菌の巧妙に進化した病原性発現機構についての理解を深めたい。

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© 2010 日本細菌学会
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