日本細菌学雑誌
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平成31年黒屋奨学賞受賞論文
細菌の運動機構に関する研究
中村 修一
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2019 年 74 巻 2 号 p. 157-165

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抄録

細菌ほど小さければ,ブラウン運動だけでも広がって移動することができる。しかし,べん毛を使って泳ぐ,菌体表面に突き出た装置で固体面に付着して這いまわる,宿主に重合させたアクチンに乗って動くなど,指向的に動けることは生存に好ましい環境を探すのに役立つだろうし,そのような運動性が病原性に関わることもよく知られている。多様な移動手段の中で,最も多くの種に利用されているのは,おそらくべん毛性運動だろう。べん毛は,螺旋状の繊維と根元のモーターから成る分子ナノマシンであり,陽イオンの電気化学的勾配(イオン駆動力)で回転する。大腸菌をはじめ多くの種のべん毛は菌体の外側に伸びているが,スピロヘータのようにペリプラズム空間にべん毛を持つ種もいる。べん毛繊維や螺旋状の菌体がスクリュープロペラのように回転することによって流体中を推進する。本総説では,べん毛の構造や動作機構,べん毛運動の環境粘度依存性などを最新の研究成果とともに解説する。

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