2021 年 76 巻 2 号 p. 139-148
黄色ブドウ球菌による食中毒は,本菌自体の感染が原因ではなく,本菌が産生するブドウ球菌エンテロトキシン(SE)によって起こることが,1930年Dackらの研究により明らかにされた。SEは現在29種類報告されており,個々のSE分子間でアミノ酸配列の相同性は低いが,そのタンパク質立体構造はよく似ているという特徴を持っている。また,本毒素は種々の生物活性を有することが知られているが,食中毒における嘔吐発症メカニズムはこれまで不明であった。我々は複数の嘔吐動物モデルを用いて,SEの嘔吐活性を解析するとともに,その発症機序の解明を試みた。我々は小型霊長類であるコモンマーモセットを用いた嘔吐発症モデルを初めて確立した。また,組織学的な解析により,SEが消化管粘膜下組織の肥満細胞に特異的に結合し,肥満細胞の脱顆粒を誘起することを明らかにし,これによって放出されたヒスタミンが脱顆粒阻害剤で抑制されることを示した。加えて,コモンマーモセットに脱顆粒阻害剤またはヒスタミン受容体アンタゴニストを直接投与することにより,SEによる嘔吐反射が抑制されることを示した。これらの結果より,食品とともに摂取されたSEは消化管粘膜下組織の肥満細胞に結合し,脱顆粒を引き起し,ヒスタミンを放出させることにより嘔吐が引き起こされることが明らかとなった。