2024 年 79 巻 4 号 p. 283-289
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)は,国内では年間3,000名以上の感染者が報告される公衆衛生上重要な病原菌である。そのため,分子疫学的手法を用いた全国的なサーベイランスが行われている。近年次世代シークエンサーの実用化に伴い,全ゲノム配列(whole-genome sequence, WGS)解析を用いた多数の株の解析が可能となり,サーベイラスへの応用も現実的となっている。本稿では筆者らのグループがEHECのWGS解析を利用して行った次の研究成果を紹介する:1)WGS解析パイプラインの構築と国内サーベイランスの高精度化,2)プラスミドやファージといった可動性因子の動態究明,3)新規高病原性EHECの系統および病原性解析。これらの結果から,EHECの遺伝的多様性が明らかになるとともに,病原性に関する共通因子が明らかになりつつある。