2025 年 80 巻 4 号 p. 197-204
腸球菌,特にEnterococcus faeciumは日和見感染症の主要な原因菌であり,その多剤耐性化,とりわけバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の蔓延は世界的な公衆衛生上の危機となっている。腸球菌の薬剤耐性遺伝子の伝播には接合伝達性プラスミドが重要な役割を担い,このプラスミドの構造は環状のみが知られていた。本稿では,筆者らが発見した新規の腸球菌プラスミドファミリーであるpELF型「線状」プラスミドに関する一連の研究成果を紹介する。初めに,vanAおよびvanM型バンコマイシン耐性遺伝子群を同時に保有する新規線状プラスミドpELF1を発見し,そのユニークなハイブリッド型末端構造と,腸球菌属内で種を超えて伝達し多剤耐性を拡散させる能力を明らかにした。次に,実際のVRE院内拡散事例において,pELF型線状プラスミド(pELF2)がE. faecium,E. raffinosus,E. casseliflavus間でのバンコマイシン耐性遺伝子群の種間伝播を駆動していたことを実証した。さらに,pELF型線状プラスミドが基本骨格構造を保ちつつ,世界中に複数の系統として存在し,宿主であるE. faeciumに適応することで,薬剤耐性が最も深刻な腸球菌であるE. faeciumにおける薬剤耐性遺伝子の主要なベクターとして機能していることを分子疫学,表現型,トランスクリプトームから統合的に示した。近年では,pELF型線状プラスミドがリネゾリド耐性遺伝子を保有したトランスポゾンや環状プラスミドの組込みにより進化し,最後の切り札とされるリネゾリドとバンコマイシンへの同時耐性を獲得して,臨床現場のみならず環境中にも拡散している実態を明らかにした。これらの結果は,pELF型線状プラスミドがE. faeciumの多剤耐性化において極めて重要な役割を果たしていることを示しており,今後の薬剤耐性対策における新たな視点の必要性を示唆している。