日本細菌学雑誌
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腸炎ビブリオのL-arabinose isomerase-その誘導と抑制
井内 史郎田中 修二
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1976 年 31 巻 6 号 p. 695-704

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抄録

L-Arabinose isomerase はEscherichia coliなどでは五炭糖アラビノースの代謝の第1段階に関与する酵素として知られている. この酵素はVibrio parahaemolyticusにおいても見いだされ, 培地にアラビノースが存在する時にのみ特異的に誘導される一種の誘導酵素である. この酵素の誘導的合成は, 先に報告したこの菌の変異株, 2001株および2126株では著しく障害され, これらの変異株におけるこの酵素の比活性は野生株の約30%程度である. すでに報告したように, 2001株はその性状から判断しておそらくE. coliで知られているcrp変異株 (cyclic AMP receptor protein欠失株) に相当する変異株と考えられる. 一方, 2126株は表現型の上からはE. coliなどで分離されているcya変異株 (adenylate cyclase欠失株) に類似しているので, adenylate cyclaseに欠失があるかどうかは不明ながら, これに類する一種の“cyclic AMP-deficient mutant”であろうと考えられる. 2126株におけるL-arabinose isomerase合成は, 培地にcyclic AMPを添加することにより野生株と同等またはそれ以上に回復する. このような所見は, この菌におけるL-arabinose isomeraseの合成には少なくとも2つの調節要因, すなわち誘導因子 (inducer) およびcyclic AMPがともに必要であることを強く示唆している. このような調節様式は, E.coliなどで各種の分解代謝酵素に共通とされるものと基本的には同一であると考えられるので, その意味でこの酵素はV.parahaemolyticusで見いだされた“典型的”な分解代謝酵素の一例と見なすことができよう. なお, 野生株におけるこの酵素の合成は培地に加えられたグルコースおよびガラクトースによりそれぞれ90%および55%程度抑制される. ただし, E.coliなどで知られている事実とは異なり, この抑制は培地にcyclic AMPを添加してもほとんど解除されない. その理由は今のところ不明である.

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