抄録
Streptococcus mutansの標準株および分離菌株の発育に及ぼすクエン酸ナトリウムの影響を調べた。Trypticase soy brothにクエン酸ナトリウムを1%に添加するとS. mutansの数種の標準菌株の発育は著しく阻害され,1.5%添加によりその発育はまつたく認められなかつた。5% sucroseの存在下でも同様の結果がえられ,この阻害作用は他のレンサ球菌やブドウ球菌に対しては認められなかつた。
クエン酸ナトリウムは菌の増殖初期に作用した時,発育阻害作用を示す。この作用はクエン酸のもつキレート作用によるものと思われる。また,クエン酸ナトリウムは菌のグルコース利用には影響を与えないようである。
健康者の歯垢,う蝕部位から分離した菌株で,その生物学的性状がS. mutansに一致している菌株の96-100%までが1.5%クエン酸ナトリウムによつてその発育を阻害され,マンニット,ソルビットを分解しない菌株では阻害される率が少なかつた。
1.5%クエン酸ナトリウムによる発育阻止現象はS. mutansを同定する際の生物学的性状の一つとして利用しうるものと思われる。