日本細菌学雑誌
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Staphylococcus aureusのセフェム系抗生物質に対する耐性機構
吉田 玲子
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1984 年 39 巻 6 号 p. 873-880

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抄録

Staphylococcus aureusにおけるセフェム系抗生物質耐性機序を臨床分離株JS1とJS2で検討した。
JS1, JS2はともにβ-ラクタマーゼを産生するが,それはペニシリナーゼのみでセファロスポリナーゼ活性は認められなかつた。また44C高温培養で分離したペニシリナーゼ非産生亜株JS11とJS21も,種々のβ-ラクタム系抗生物質に親株同様の高い耐性を示し,この耐性機序にペニシリナーゼの関与は認められなかつた。
作用点であるペニシリン結合タンパク質(PBPs)の解析では,JS11とJS21から長期継代により分離した感受性株JS111とJS211で分子量81,000 (PBP1), 77,000 (PBP2), 74,000 (PBP3)および44,000ダルトン(以下ダルトンは省略)(PBP4)の4PBPを検出した。一方,セフェム系抗生物質耐性株すべてにこれら4PBPのほか分子量78,000のPBP2'の出現を認めた。PBP2'は0.01mM 14C-ペニシリンGにほとんど結合しなかつた。セフォキシチン(CFX)25μg/mlとの競合結合でも,ほかのPBPは14C-PCGとの結合が16%以下であるのに対し,PBP2'は70%であり,CFXにも結合能のもつとも弱いPBPであつた。
生菌体を用いてPBPと薬剤の結合を調べたところ,膜画分における結果とほぼ同様の成績を耐性株でも得られた。これは,薬剤の作用点への到達を阻害する物質が,耐性株に存在しないことを示した。
以上から,これら臨床分離株のセフェム系抗生物質耐性は,PBP2'が薬剤存在下でもムレイン架橋酵素として働くことが原因と推定された。

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