日本細菌学雑誌
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B群赤痢菌の病原因子とその発現調節
笹川 千尋
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1995 年 50 巻 3 号 p. 623-636

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抄録

赤痢菌の病原性発現には,菌の腸上皮への侵入とその後の細胞内・細胞間拡散が不可欠である。細胞侵入と拡散は,本菌の大プラスミドがコードするIpa(IpaB,IpaC,IpaD)とVirG蛋白により各々行なわれる。Ipa蛋白の菌体表層分泌は大プラスミドのコードするMixとSpa蛋白群により行なわれるが,細胞侵入を発揮するためには菌体からIpaが遊離しIpaBC複合体を形成する事が必要である。Ipa蛋白の遊離は赤痢菌と細胞外マトリックス(フィブロネクチン等)の接触が引き金となり起こり,生じたIpa複合体は上皮細胞レセプターに作用し,最終的にアクチン系細胞骨格繊維を再構築し食作用を誘起する。ファゴゾームからの菌の脱離にもIpa蛋白が関与している。細胞質内では,赤痢菌は菌体の一極にVirG蛋白を分泌し,そこでアクチンの重合を行ない,これを原動力として菌は細胞内及び隣接細胞へ感染を行なう。これら赤痢菌の感染に重要な蛋白の発現は,その機能が合目的に働くよう厳密な調節系の元に置かれている。さらに染色体上にも多数のビルレンスに必要な遺伝子群が存在し,菌の細胞内増殖,細胞間感染,大プラスミド上の遺伝子発現調節など様々な機能に関与していることが知られている。

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