日本細菌学雑誌
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Bacteroides類縁菌LPSの化学構造と免疫生物学的活性
Porphyromonas gingivalis LPS研究を中心に
小川 知彦
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2006 年 61 巻 4 号 p. 391-404

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抄録

1933年Boivinらは初めてネズミチフス菌から内毒素を抽出して以来, 内毒素の化学的, 生物学的な研究が多方面にわたり進められた. 1952年Westphalらの温フェノールー水により抽出された内毒素性リボ多糖 (LPS) の構造学的, 機能学的性状が明らかにされるとともに, 今日, これらグラム陰性菌の感染防御機構に関する研究が国内外で盛んに行われ大きな進歩がみられる. これまでのPS研究のなかで, 1960年代からBacteroides類縁菌LPSの特徴的な化学構造やその生物活性に注目が集まりこれまでの長い研究の歴史がある. また, 口腔内に棲息する歯周病の原因菌として注目される菌種もかつてはバクテロイデス属に分類されていたものが多くみられ, なかでも黒色色素産生性偏性嫌気性菌であるPorphyromonas gingivalis (旧Bacteroides gingivalis) LPSについてもビルレンス因子としての可能性が探究されてきた. これらBacteroides類縁菌LPSの活性中心であるリピドA分子は, その特徴的な化学構造の故に内毒素作用や種々の生物活性が弱く, しばしばLPSのアンタゴニストとして作用することが知られている. 他方, これらしPSは, LPSに不応答であるC3H/HeJマウスの細胞を活性化することが多数報告されている. 我々はP.gingivalisリピドAの化学構造を最初に明らかにしたが, 当初, P.gingivalisLPSやリピドAがC3H/HeJマウスに作用することを多くの研究者と同様に報告した. その後近年のToll-likereceptor研究の隆盛に応じて, P.gingivalisLPSやリピドAがTLR2に作用するリガンドであるとの知見が多くみられた. 我々は, P.gingivalisリピドA種の不均質性ならびに生物学的に活性な成分の混入などの問題点を解決するためにリピドAの化学合成対応物を作出し, TLR4アゴニストであるとの結果を得ている. さらにP.gingivalisLPSやリピドAがTLR2リガンドであるとの通説を払拭するためにP.gingivalisLPS画分に混入するTLR2アゴニストを分離・精製し, その化学構造が3残基の脂肪酸からなるリポタンパク質であることを明らかにし, 長年のBacteroides類縁菌LPSにまつわる問題を解決した. 歯科領域ばかりでなく, 自然免疫分野では今なお, “TLR2活性LPS1リピドA”との誤認に基づく研究が跡を絶たない. これまでの歴史的経緯を踏まえて, 腸内細菌科由来LPSやリピドAと同様に, TLR4に作用するリガンドであるBactem/des類縁菌PSについて, P.gingivalisLPSやリピドAに関する研究を中心に概説した.

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