Breeding Research
Online ISSN : 1348-1290
Print ISSN : 1344-7629
ISSN-L : 1344-7629
Research Paper
QTL analysis of strawberry anthracnose resistance
Kazunari IimuraKimihisa TasakiYoshiko NakazawaMasayuki Amagai
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2013 Volume 15 Issue 3 Pages 90-97

Details
摘 要

イチゴ炭疽病(病原菌:Glomerella cingulata)耐病性に関する遺伝領域を解析するため,イチゴ品種「とちおとめ」と「いちご中間母本農2号」を交雑したF1集団を用いて,QTL解析を行った.F1集団で1:1に分離する各種DNAマーカーを開発し,シュードテストクロス法を用いて連鎖解析を行った.この結果,「とちおとめ」で376個のマーカーが座乗する30連鎖群(全長1005.4 cM),「いちご中間母本農2号」で506個のマーカーが座乗する29連鎖群(全長1448.1 cM)からなる連鎖地図が得られた.F1集団の炭疽病発病度のデータを用いてQTL解析を行った結果,計9か所の領域にQTLが検出された.また,マーカーのF1集団での分離比や,連鎖地図の相反関係から,イチゴ染色体は異質倍数体構造を持ち,二倍性の遺伝様式をとっていると推察された.

緒言

イチゴ炭疽病はイチゴにおける最重要病害の一つである.イチゴ炭疽病にはGlomerella cingulataColletotricum acutatumの2種類の病原菌が知られているが(Howard et al. 1992),国内では特にG. cingulataによる被害が甚大である.G. cingulataによる炭疽病は病原力が強く,発病すると枯死や萎凋を引き起こし,本圃での発生のほか,育苗期に発生し深刻な苗不足の原因になる(橋田ら 1988).国内の経済品種の大多数は,本病に対して罹病性であり,防除には薬剤散布による予防や,雨除け育苗,底面給水等の耕種的防除が有効である(石川 2005).しかし,防除には多大な労力とコストがかかるため,耐病性品種の開発に対する期待は大きい.

炭疽病(病原菌:G. cingulata)に対する耐病性は,量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Locus:以下QTL)によって支配されていると考えられており(森 2001),耐病性品種を利用して交配を行っても得られる耐病性個体の出現頻度は低い.また,耐病性検定結果は環境要因に左右されるため誤差が生じやすいことも問題となっており,優れた耐病性品種を育成するのは困難を極める.

耐病性育種選抜の効率化手段として,耐病性に連鎖するDNAマーカーの開発が行われている.イネでは縞葉枯病耐病性遺伝子(Stvb-i)を検出するマーカー(ST10)が開発され(早野ら 2000),実際に育種選抜に用いられている.イチゴにおいても,C. acutatumに対する炭疽病耐病性の主働遺伝子に連鎖するマーカーをバルクセグレガント法(Michelmore et al. 1991)により特定した報告がある(Lerceteau-Köhler et al. 2005).一方,G. cingulataに対する耐病性のように,微働遺伝子に連鎖するマーカーを開発するには,連鎖地図を用いたQTL解析が有効である.しかし,イチゴは育種の過程において倍数化が進んでおり,栽培種であるFragaria × ananassaは八倍体と高次倍数体である.Fragaria × ananassaのゲノム構造については,AAAABBBBと異質倍数体であるという説や(Bringhurst 1990),部分的に同質であるという説(Senanayake et al. 1967)が混在しており,未だ明らかにされていない.

複雑な遺伝様式も一因となり,八倍体イチゴの連鎖解析は困難であると考えられてきたが,近年ではシュードテストクロス法を用いて連鎖地図が作成されている(Lerceteau-Köhler et al. 2003).シュードテストクロス法は,へテロ性の高い他殖性植物の連鎖解析を行うための手法で,F1集団において,1:1分離するマーカーを用いることで高次倍数体の植物であっても連鎖解析が可能である(Wu et al. 1992, Grattapaglia et al. 1994).

そこで,本研究では育種選抜に利用可能なDNAマーカーを開発するために,必要な遺伝的情報を得ることを目的とし,シュードテストクロス法を用いて,炭疽病罹病性品種である「とちおとめ」と,炭疽病耐病性品種である「いちご中間母本農2号」(以後「農2号」と略す)の連鎖地図を作成した.そして,F1の炭疽病発病度のデータを用いて,炭疽病耐病性に関するQTL解析を行った.

材料と方法

1. 供試材料およびDNA抽出

連鎖解析のための材料として,イチゴ品種「とちおとめ」,「農2号」および「とちおとめ」を種子親,「農2号」を花粉親として交配した94組合わせのF1集団を用いた.また,高野・生井(2008)の方法により,F1および両親のランナーから,生長点を切り出して培養し,無菌培養苗を作製した.

DNA抽出は,葉組織約1 gを液体窒素で粉砕後,改変Cetyl Trimethyl Ammonium Bromide(CTAB)法(Yamamoto et al. 2001)により行った.

2. 炭疽病耐病性の特性調査

特性調査は1系統につき,5個体の培養苗を用いて行った.葉数を3~4本に調整した無菌培養苗を水耕栽培により20℃,12時間日長で2週間馴化した.炭疽病菌(G. cingulata:菌株OTT512)はPotato Dextrose Agar(PDA)平板培地で25℃・5日間培養後,菌そう周辺部を直径4 mmのコルクボーラーで打ち抜き,同一条件で4日間培養した.その後,熱した白金耳で画線し,さらに3日間培養した.形成された分生子を,滅菌水で1.0 × 105個/mlに濃度調整し,ペーパークロマトグラフ用噴霧器で馴化苗に1株あたり1 ml噴霧接種し,インキュベーター内(25℃,14時間日長)で24時間飽和湿度を維持した.その後イチゴ苗をインキュベーター(25℃,14時間日長)内で管理した.特性調査は接種7日,14日,21日後に行い,発病度の算出は野沢ら(2004)の方法を一部改変して行った.〔∑(発病指数×各発病指数の株数)/(4×調査株数)〕×100とし,発病指数は0:発病なし,0.5:斑点型病斑を形成,1:葉に黒褐色の陥没病斑を形成,1.5:葉柄の褐変,2:葉柄の折損,3:萎凋またはクラウン部褐変化および4:枯死とした.

3. Random Amplified Polymorphic DNA(RAPD)マーカーを用いた多型の検出方法

Polymerase Chain Reaction(PCR)の組成は液量を25 μlとし,鋳型DNAを10 ng,10 mer(OPERON)もしくは12 mer(ニッポンジーン)のランダムプライマー7.8 pmol,rTaq 1 U(TaKaRa),1×PCR buffer(TaKaRa),dNTP 0.2 mM(TaKaRa)とした.増幅反応は94℃ 1分,(94℃ 1分,44℃ 2分,72℃ 2分)×45サイクル,72℃ 7分とした.

1.5%アガロースゲルを用いて,増幅産物を100 Vで電気泳動した後,エチジウムブロマイド(1 μg/ml)により染色し,デンシトグラフAE-6920-FX(アトー社)で画像の取り込みを行った.

4. Amplified Fragment Length Polymorphism(AFLP)マーカーを用いた多型の検出方法

DNA 150 ngを制限酵素EcoR I,Mse I(New England ‍Bio Lab:以下,NEB)で消化した後,EcoR Iアダプター(Fw: 5-GACGATGAGTCCTGAG-3, Rv: 3-TACTCAGGACTC​AT-5)およびMse Iアダプター(Fw: 5-CTCGTAGACTGC​GTACC-3, Rv: 3-CATCTGACGCATGGTTAA-5)をライゲーション(T4 DNA ligase, NEB)し,1/10TEで10倍希釈した.Preselective PCRにはAFLP core mix(applied biosystems)を用いた.プライマーはアダプター配列に1塩基付加したもの(EcoR I+A/Mse I+C)を用いた.Selective PCR組成は,液量を15 μlとし,鋳型DNA(Preselective PCR産物を1/10TEで50倍希釈したもの)2.2 μl,1×buffer(TaKaRa),dNTP 0.2 mM(TaKaRa),アダプター配列に3塩基付加したプライマー(EcoR I+3, Mse I+3)各7.5 pmol,rTaq 0.3 U(TaKaRa)とした(Vos et al. 1995を改変).

AFLPマーカーの泳動はHigh Efficiency Genome Scanning(HEGS)法(Kawasaki and Murakami 2000)により行った.泳動後のゲルはSYBR Green I(TaKaRa)を用いて染色を行い,FLA-5000(富士フィルム)で画像の取り込みを行った(図1).

図1.

AFLPプライマー(ATG-CTG)による(とちおとめ×いちご中間母本農2号)F1集団の解析例

5. Simple Sequence Repeat(SSR)マーカーの開発

「とちおとめ」のDNAを制限酵素Alu Iで消化後,Nunome et al.(2006)の方法により(CA)nおよび(GA)nの配列を含むSSR濃縮ライブラリーの作製を行い,Gardner et al.(1999)の方法によりSSRを含有すると推定されるクローンを選抜した.クローンの塩基配列の決定は,ダイレクトシーケンス法により行った.クローンをLuria-Bertani(LB)液体培地で37℃,24時間培養した液1 μlを鋳型に用いて,ForwardプライマーおよびReverseプライマー各0.2 μM,1×buffer(TaKaRa),dNTP 0.2 mM(TaKaRa)およびrTaq 0.25 U(TaKaRa)となるように混合し,全量20 μlでPCRを行った.PCR産物5 μlにExonuclease I(20 U/μl)0.25 μl,Shrimp alkaline phosphatase(1 U/μl)0.5 μl,MilliQ(MQ)水0.75 μlを加え,37℃・25分処理した後,80℃・15分で酵素を失活させた.シーケンス反応はDTCS Quick Start Master Mix(BECKMAN COULTER社)を用いた.シーケンサーはCEQ8000(BECKMAN COULTER社)を用いた.また,SSR領域の検出,重複クローンの除去,プライマーの設計は,read2marker(Fukuoka et al. 2005)により行った.

6. SSRマーカーの検出

PCRは液量を10 μlとし,DNA 10 ng,1×buffer(TaKaRa),dNTP 0.2 mM(TaKaRa),ForwardプライマーおよびReverseプライマー各2 pmol,rTaq 0.25 U(TaKaRa)とし,電気泳動は,ポリアクリルアミド変性ゲルを用いて行った.ゲル組成は,6%アクリルアミド(19:1),1×TBE buffer,7 M尿素,30%ホルムアミド,0.1%過硫酸アンモニウム,0.1%テトラメチルエチレンジアミンとし,1×TBE bufferを用いて250 Vの定電圧で電気泳動した.泳動後のゲルはSYBR Goldを用いて染色を行い,FLA-5000(富士フィルム)で画像の取り込みを行った(図2).

図2.

SSRプライマー(HaeCA030234)による(とちおとめ×いちご中間母本農2号)F1集団の解析例

同じアルファベットでのカンマの有無(例aとa’,bとb’)は,マーカーが相反連鎖していることを示す.

7. シュードテストクロス法による連鎖地図の作成

供試したマーカーのうち,カイ二乗(χ2)検定(5%水準)によりF1集団で1:1分離に適合するものを選抜し,連鎖地図はMAPMAKER-EXP3.0(Wu et al. 1992)を用いて作成した.地図関数はKosambiの式を用いて行い,LOD値は5.0に設定した.マーカーの遺伝子型は,マーカーが検出されたものをH(ヘテロ),マーカーが検出されなかったものをA(劣性ホモ)とし,戻し交雑系統と見なして連鎖解析を行った.SSRマーカーで共優性関係にあると考えられるマーカーについても,それぞれ別々の優性マーカーと見なし解析を行った.また,マーカーの遺伝子型を置き換えたデータ(H→A,A→H)を加えて解析を行い,遺伝子型を置き換えたマーカーと元の遺伝子型のマーカーで連鎖関係が見られたものは,同じ染色体に属すると見なし,同種の染色体上にあると考えられるマーカーを含む連鎖群同士を統合し,地図を作成した.

8. QTL解析

F1集団94個体を用いた炭疽病発病度のQTL解析は,Composite Interval Mapping法(QTL Cartographer Version 2.5)を用いて行った.LODスコアの閾値を2.0に設定し,LODスコアが2.0を超えた領域に耐病性に関するQTLが存在すると推定した.

結果

1. RAPDマーカーの選抜

1,377種類のランダムプライマーを用い,まず両親間で多型を示すRAPDマーカーを調査した結果,「とちおとめ」のみが有する特異的マーカーが97個,「農2号」のみが有する特異的マーカーが113個検出された.次にこれら特異的マーカーを用いてF1 94個体の多型を調査した結果,1:1分離に適合したマーカーは,「とちおとめ」では44個(45%),「農2号」では60個(53%)であった.

2. AFLPマーカーの選抜と分離比

256組合せのAFLPプライマーを用いてマーカー多型を調査した結果,「とちおとめ」のみが有する特異的マーカーが356個,「農2号」のみが有する特異的マーカーが475個それぞれ検出された.次にこれら特異的マーカーを用いてF1 94個体の多型を調査した結果,1:1分離に適合したマーカーは,「とちおとめ」で258個(72%),「農2号」で340個(72%)が確認された.また,1:0分離(分離無)を示すマーカーが,「とちおとめ」で82個(23%),「農2号」で61個(13%),3:1分離を示すマーカーが「とちおとめ」で4個(1%),「農2号」で15個(3%),その他の分離比を示すマーカーが「とちおとめ」で12個(3%),「農2号」で59個(12%)確認された.その他の分離比で,最もヘテロ遺伝子型の出現頻度が多いもので92:2,最も少ないもので26:68の分離比を示した(図1,図3).

図3.

両親間で多型を示すAFLPおよびSSRマーカーのF1集団での分離比

3. SSRマーカーの選抜

165種類のSSR検出プライマーを用いて,両親間で多型を示すマーカーを調査した結果,「とちおとめ」のみが有する特異的マーカーが121個,「農2号」のみが有する特異的マーカーが136個検出された.次にこれら特異的マーカーを用いてF1 94個体の多型調査を行った結果,1:1分離に適合したマーカーが,「とちおとめ」で90個(74%),「農2号」で116個(85%)確認された.また,1:0分離マーカーが「とちおとめ」で21個(17%),「農2号」で9個(7%),3:1分離を示すマーカーが「とちおとめ」で1個(1%),「農2号」で5個(4%),その他の分離比を示すマーカーが「とちおとめ」で9個(8%),「農2号」で6個(4%)確認された.その他の分離比で,最もヘテロ遺伝子型の出現頻度が多い分離比は89:5,最も少ない分離比は21:73であった(図2,図3).

4. 連鎖地図の作成

F1集団で1:1に分離したマーカーを用いて,「とちおとめ」,「農2号」の連鎖地図を作成した.「とちおとめ」特異的マーカー392個を用いて連鎖解析を行った結果,376個(96%)のマーカーが座乗する30の連鎖群が得られた(図4).全長は1005.4 cM,平均マーカー間距離は4.1 cMであった.また,「農2号」特異的マーカー516個を用いて連鎖解析を行った結果,506個(98%)のマーカーが座乗する29の連鎖群が形成された(図5).全長は1448.1 cM,平均マーカー間距離は4.3 cMであった.形成された連鎖群のうち,相反連鎖するマーカーが統合された連鎖群が「とちおとめ」で18個,「農2号」で21個認められた(表1).

図4.

イチゴ(とちおとめ)のDNAマーカーによる連鎖地図

「とちおとめ」特異的マーカーの連鎖解析によって作成された連鎖群(1~30).連鎖群の番号右のC/Rは相反連鎖するマーカーが統合されている連鎖群を表し,Cは統合されていない連鎖群を表す.

連鎖群左のTA~,TR~,TS~はそれぞれTA:AFLPマーカー,TR:RAPDマーカー,TS:SSRマーカーを表し,相反連鎖しているマーカーにはマーカー名の前にrを付与している.また,連鎖群左の数字はマーカーの位置を示している(単位cM).

図5.

イチゴ(いちご中間母本農2号)のDNAマーカーによる連鎖地図

「いちご中間母本農2号」の特異的マーカーの連鎖解析によって作成された連鎖群(1~29).連鎖群の番号右のC/Rは相反連鎖するマーカーが統合されている連鎖群を表し,Cは統合されていない連鎖群を表す.

連鎖群左のKA~,KR~,KS~はそれぞれKA:AFLPマーカー,KR:RAPDマーカー,KS:SSRマーカーを表し,相反連鎖しているマーカーにはマーカー名の前にrを付与している.また,連鎖群左の数字はマーカーの位置を示している(単位cM).

表1. シュードテストクロス法により作成した連鎖地図の概要
品種・系統名 座上マーカー数 全長 平均マーカー間距離 連鎖群数 相反連鎖するマーカーが統合された連鎖群数 未統合の連鎖群数
とちおとめ 376 1005.4 cM 4.1 cM 30 18 12
いちご中間母本農2号 506 1448.1 cM 4.3 cM 29 21  8

5. QTL解析による炭疽病耐病性連鎖マーカーの検出

接種7日,14日,21日後におけるF1集団の炭疽病発病度を用いてQTL解析を行った結果,「農2号」の連鎖地図上に5か所(7日後:2,14日後:2,21日後:1)および「とちおとめ」の連鎖地図上に4か所(7日後:1,14日後:2,21日後:1)にQTLが検出された.QTLはすべて独立した領域に検出され,3回の調査日で共通するQTLは検出されなかった.また,各々のQTL領域において,最大LOD値付近に位置するDNAマーカーの遺伝子型と平均発病度との関係を調査した結果,「とちおとめ」連鎖群T11に座乗するTS25を除き,ヘテロ型集団と劣性ホモ型集団の平均発病度に有意な差(t検定法による有意水準5%)が認められた(表2).

表2. とちおとめ,いちご中間母本農2号の連鎖地図上に検出された炭疽病耐病性のQTL
品種・系統名 接種後
日数
連鎖群 QTL検出位置
(cM)1)
最大LOD値 寄与率
(%)
最近傍
マーカー
平均発病度2) 有意差3)
ヘテロ集団 劣性ホモ集団
とちおとめ 7日後 11 27.4 2.5 11.2 TS25 38.2 33.8
18  0.0 3.0 10.7 TA240 33.0 39.0 *
14日後  9  0.0 2.7 10.7 TR18 61.3 72.2 **
21日後 24 12.8 2.0  7.7 TA4 81.1 89.6 *
いちご中間
母本農2号
7日後  8 37.9 2.8 10.2 KR39 39.2 32.3 **
16 28.3 2.4 11.2 KA274 39.2 32.7 **
14日後  4 77.2 2.2 10.4 KA292 63.4 70.9 *
 5 75.5 3.5 14.4 KS23 74.3 63.4 **
21日後 11  6.5 2.4  8.7 KA269 82.4 90.8 *

1) LOD値が最大になる位置を表す.

2) 平均発病度=ヘテロ(or劣性ホモ)集団の発病度合計/ヘテロ(or劣性ホモ)集団の個体数

3) **:1%水準で有意差有 *:5%水準で有意差有 ―:有意差無

考察

イチゴ炭疽病発病度に関するQTL解析を行った結果,異なる染色体領域に複数のQTLが検出されたが,検出されたQTLはLOD値が2.0~3.5,寄与率が7.7%~14.4%と何れも効果の低いものであった.また,今回用いたF1集団の発病度も集団内で連続的な値を示すことから,「農2号」の耐病性には効果の弱い複数のQTLが関与していると考えられた.元来「農2号」は育成系譜上に複数の耐病性品種が用いられており,多数の耐病性遺伝子が集積していると考えられている(沖村ら 2004).また,当初F1集団の耐病性の強弱は,「農2号」の耐病性因子を受け継ぐかどうかによって決定されると考えられたが,罹病性品種「とちおとめ」の連鎖群からもQTLが検出されたことから,「とちおとめ」が持つ遺伝因子もF1系統の耐病性に関与していると推察された.さらに,特性調査を行った時期ごとに異なったQTLが検出されたことから,イチゴ炭疽病耐病性には感染後から病徴の進行に応じて,複数の異なる遺伝子が関与していると推察された.実際に,耐病性検定においても調査日によって耐病性の強弱が大きく変化する系統があった.今回のような複雑なQTLが支配する形質の場合,マーカー選抜による育種を行うことは難しい.しかし,耐病性マーカーの有無で分けたグループ間で発病度に有意差が見られたことから,選抜効果の高いマーカーを組み合わせて耐病性遺伝子を集積させ,平均発病度の低い集団を作成することが可能であると推察された.今後,炭疽病耐病性連鎖マーカーを育種に効率的に用いるためには,できる限り効果の高いQTLを利用し,選抜のための最適なマーカーの組み合わせを検討していくことが必要である.そのためには,新たなQTLを見つけるために,「農2号」とは別の耐病性因子を持つと考えられる遺伝資源を用いて,解析を行うことが必要になる.また,このような複雑なQTL解析の場合,耐病性検定のわずかな誤差が,結果に大きな影響を与える恐れがあるため,より精度の高い耐病性検定方法の開発が必要である.

今回は,シュードテストクロス法によりF1集団で分離するDNAマーカーを用いて連鎖地図の作成を行った.シュードテストクロス法では,両親のゲノムの2か所以上に同一のマーカー座がある場合,その領域のマーカーはF1集団において1:1分離をしないため,解析が不可能である.我が国の栽培イチゴ品種育成においては,限られた優良な交配母本が繰り返し用いられた歴史があるために近交度が高く(稲葉・吉田 2006),ホモ化しているゲノム領域や,品種間で共通しているゲノム領域が多く存在すると予想された.一方で,八倍体であることやゲノム構造そのものの異質性も不明であるため,F1集団においてマーカーは多様な分離比を示すことも考えられ(Lerceteau-Köhler et al. 2003),当初,栽培イチゴの連鎖地図作成は困難であると予想された.しかし,今回試験に用いたF1集団のマーカー分離比は,1:1分離マーカーと1:0分離マーカーが大半を占めていた(図3).この結果から,染色体が実際には二倍性の挙動をしており,マーカー領域が,ヘテロ×劣性ホモ(Aa×aa)の場合1:1に,優性ホモ×劣性ホモ(AA×aa)の場合1:0に分離していると推察された.また,AFLPマーカーにおいて相反連鎖するマーカーや,SSRマーカーにおいて共優性を示すマーカーが確認された(図2).これらのマーカーは異なる相同染色体に座乗しており,その染色体の何れか一方がF1に受け継がれるために起こると考えられるが,一部のマーカーで二倍性の分離に適合せず,相反関係が認められない連鎖群もあることから,部分的に同質倍数体の遺伝様式をとっている染色体が存在する可能性も示唆された.実際に八倍体イチゴの染色体の対合を観察した研究では,染色体のほとんどが減数分裂の際に2価染色体を形成し,稀に多価染色体の形成が確認されている(木庭ら 2007).我々の結果でも,二倍性の分離に適合しないマーカーの数は少なく,イチゴの染色体の多くは,決められた相同染色体同士が2価染色体を形成する二倍性の分離をしていると推察されたが,得られている連鎖群はまだ不完全であるため,ゲノム構造を理解するためにはマーカーの種類や数を増やし,連鎖解析を行うことが必要である.特に,今回の試験で,共優性と考えられるSSRマーカーが検出されたことから,共優性マーカーを増やすことで,両親間の連鎖群の統合を行うことができれば,今回検出された「とちおとめ」由来のQTLと,「農2号」由来のQTLの関係性も推測できるようになり,より詳細な解析を行うことが可能であると考えられる.

栽培イチゴにおいて,ゲノムが複雑な遺伝様式をとっていた場合,マーカー開発やマーカー育種が困難であると懸念されたが,本研究の結果では,ゲノムの大部分が異質倍数体で二倍性の挙動を示していると考えられた.これらの結果から,栽培種のイチゴにおいて,シュードテストクロス法による連鎖地図の作成や,マーカーの開発は可能であり,有効なマーカー育種は可能であると考えられた.本研究を契機に,イチゴ育種に有用な形質について多くのマーカー開発が行われ,我が国のイチゴ品種開発の更なる進展につながることを期待する.

謝辞

本研究を遂行するにあたり,独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所の福岡浩之博士,布目司博士にはSSRマーカーの開発技術についてご指導いただいた.また,栃木県農業試験場環境技術部病理昆虫研究室からイチゴ炭疽病菌を,栃木県農業試験場栃木分場いちご研究室(現いちご研究所)からイチゴの品種,系統を分譲していただいた.ここに深く感謝の意を表する.

引用文献
 
© 2012 Japanese Society of Breeding
feedback
Top