Breeding Research
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Research Paper
Development of a novel method to measure cooked rice whiteness using a scanner and new software for image analysis
Yoshie KogiTakanari TanabataKatsura TomitaAsako Kobayashi
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2014 Volume 16 Issue 3 Pages 115-120

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摘 要

フラットベッドスキャナ(スキャナ)と画像解析ソフトを用いて炊飯米の白さを測定する方法を開発した.直径35 mmのプラスチックシャーレに炊飯米を充填し,スキャナで画像を取り込み,画像解析ソフトにより黄色方向を示すb*値を算出した.b*値は,食味官能試験の白さと1%水準で有意な相関を示したこと,および明瞭な品種間差があったことから,炊飯米の白さはb*値で評価できた.b*値と食味官能試験の外観総合および食味総合との間には1%水準で有意な相関が見られたことから,炊飯米の白さは食味の重要な要素の1つであることを確認した.さらに,b*値と出穂期の間に1%水準で有意な相関が見られた.本研究で開発した炊飯米の白さの測定法における試料は,少量で十分なことから,初期世代での食味の補助的な選抜方法として応用可能であり,良食味品種の育成に資することが期待される.

緒言

良食味性は水稲育種において最も重要な形質の1つである.食味評価のうえで食味官能試験は最も確実な方法であるが(吉川ら 1969),試験には1 kgの試料が必要なため(竹生 1987),後期世代でしか選抜することができない.そこで初期世代で食味の選抜を行うため,補助的な選抜法としてアミロース含有率(Okuno et al. 1983稲津 1988Yano et al. 1988)や炊飯光沢(藤巻・櫛淵 1975)による方法が開発されてきた.炊飯光沢法では炊飯米の外観のうち光沢のみを評価するが,近年,光沢だけでなく白さに特徴のある新品種が育成されている(浅野目ら 2011).

炊飯米の白さの評価は,分光測色計(後藤ら 2011)や画像解析システム(Yanagihara 2000)により行われている.これらの手法は,測定に専用の高額機器を必要とする.

本研究では,炊飯米の白さを簡易に測定する手法を開発した.すなわち,精米30 gを炊飯し,炊飯米27 g(9.0 g×3反復)の画像を市販のフラットベットスキャナ(スキャナ)で取得し,新たに開発した画像解析ソフトで解析することにより,白さを数値化することで評価が可能となることを示した.また,炊飯米の白さは,品種間差に加え登熟期間の気温が影響することが示唆されている(後藤ら 2012)ため,本手法を福井県農業試験場で栽培した出穂期の異なる品種・系統に適用し,出穂期と炊飯米の白さとの関係を検討した.

材料および方法

1. 供試材料

食味官能試験で白さの異なる9品種(表1)および福井県農業試験場の生産力検定試験に供試した32系統(世代F6~F12)を用いた.これらの品種・系統を2012年5月9日に福井県農業試験場圃場に移植した.施肥は,表1に示した9品種および食味官能試験の基準として用いたコシヒカリ(基準コシヒカリ,別圃場で栽培)については窒素成分で10 a当たり基肥3.0 kgおよび穂肥4.0 kg,生産力検定に供試した32系統については基肥4.5 kgおよび穂肥4.0 kgを施用した.玄米は,自動テスト精米機(山本製作所,ATM-31T)で歩留まり90 ± 0.5%に搗精した.

2. 炊飯および画像の取得方法

炊飯は岡留ら(1996)の方法を改変して行った.精米30 gをステンレスカップにとり,軽くかき混ぜながら5回洗米した.水分14.1%の時に精米重量の1.38倍となるように加水量を調節し,1時間吸水させた.電気炊飯器(National,SR-18AC)の外釜に500 mlの水を加え,蒸し板を置き,その上に5個のカップを乗せて,25分間蒸し調理し,さらに10分間蒸らした後,釜から取り出して約20℃の室温で30分放冷した後に測定に用いた.炊飯米は,カップ部位による誤差を取り除くために表層部を除いた.

炊飯米9 gを直径35 mm,高さ10 mmの透明なプラスチックシャーレ(シャーレ)に充填し,スキャナ(EPSON,GT-X820)を用い,ヘッドを閉じた状態で画像を取り込んだ(図1).画像取得条件は解像度が600 dpi,カラー画像および保存形式はTIFFフォーマットとした.尚,測定は3反復で行った.

表1. 供試した品種および出穂期
品種名 取寄せ先 出穂期
ハナエチゼン 福井県 7/18
イクヒカリ 福井県 7/28
コシヒカリ 福井県 7/29
つや姫 山形県 7/29
ミルキークイーン (独)農研機構 作物研究所 7/29
あきさかり 福井県 8/2
日本晴 福井県 8/5
さがびより 佐賀県 8/17
にこまる (独)農研機構 九州・沖縄農業研究センター 8/17

移植日:2012年5月9日

図1.

スキャナと画像解析ソフトによる炊飯米の白さの測定法

3. 画像解析ソフト

スキャナを使って取得した画像からシャーレごとに領域内のすべてのピクセルのL*a*b*値の平均値を算出することができるソフトを開発した.L*は明度,a*,b*は色度を表しており,+a*は赤方向,–a*は緑方向,+b*は黄色方向,–b*は青方向を示している(清水 2004).プログラム開発ソフトは Microsoft® VisualC++ およびOpenCV(OpenCV Developers Team 2012)を使用し,プログラムを独自に作成した.

L*a*b* 値各々の平均値を求める処理の手順は次の通りである.最初に,スキャナで撮影した画像にOpenCVの2値化処理(cvThreshold)を行って2値画像を取得する.続いて,取得した2値画像に対してOpenCVの輪郭検出処理(cvFindContours)を適用しシャーレ内側の領域を特定する.最後に,特定した各シャーレの領域内部のすべてのピクセルのRGB値をL*a*b値に変換し,L*,a*,b*値各々の平均値を算出する(図1).

開発したソフトは,大量の試料を効率的に解析することを目的として,1枚の画像に複数個のシャーレが撮影されている場合,シャーレの領域を認識し,シャーレごとに平均値を自動で算出し結果を出力する機能および複数の画像ファイルを一括して自動で解析する機能を有している.これらの機能により画像撮影と画像解析の作業負担が軽減され,効率的に大量のサンプルの計測を実行することができる.開発したソフトは,http://phenotyping.image.coocan.jp/よりフリーソフトウエアとしてダウンロードし利用することが可能である.

4. 食味官能試験

食味官能試験は,(独)農研機構 食品総合研究所で開発した方法(竹生 1987)を改変して行った.精米900 gを水分14.1%の時に精米重量の1.38倍となるように加水量を調節し,20分間浸漬後に電気炊飯器(National,SR-18AC)で炊飯した.炊飯米を切るように軽くほぐし,布巾を釜の上にかけ,40分間蒸らした後に食味官能試験を行った.評価項目のうち,香り,つや,外観総合,味および食味総合の5項目は,各々を–3(極端に不良)~+3(極端に良い),白さは–3(極端に黄色い)~+3(極端に白い),硬さは–3(かなり柔らかい)~+3(かなり硬い),粘りは–3(かなり弱い)~+3(かなり強い)の7段階で評価した.パネルは福井県農業試験場職員24名である.試験は1反復で行った.

5. 登熟気温

圃場に設置したデジタル温度計おんどとりJr.(ティアンドディ,TR-52S)により1時間ごとに気温を記録し,24時間の平均を日平均気温とした.

結果

1. 食味官能評価値とb*値の関係

1に示した9品種の食味官能試験の白さとL*a*b*値を比較した結果,黄色方向を示すb*値において1%水準で有意な負の相関が見られた(図2a).よって炊飯米の白さはb*値で評価できることが示された.明度を示すL*値および赤色方向を示すa*値については,食味官能試験の白さとの間に有意な相関は見られなかった(図2b,c).また,表1に示した9品種の食味官能評価値とb*値との相関係数を求めた結果,外観総合および食味総合において1%水準,つやにおいて5%水準で有意な負の相関が見られた(表2).香り,味,粘りおよび硬さについては有意な相関は見られなかった.

図2.

食味官能試験における白さとL*a*b*値との関係

1)(a)b*値,(b)L*値,(c)a*値との関係を示す.

2)**1%水準で有意であることを示す.

表2. b*値と食味官能評価値の相関
項目 相関係数(r)
香り −0.35​
白さ −0.93​ **
つや −0.69​ *
外観総合 −0.86​ **
−0.50​
粘り −0.34​
硬さ −0.27​
食味総合 −0.79​ **

1)*1%,**5%水準で有意差があることを示す.

2. b*値の品種間差

1に示した9品種のb*値は0.59~1.62の範囲に分布し,にこまるが0.59と最も低い値を示し,日本晴が1.62と最も高い値を示した(図3).また,日本晴と比較して,さがびより,あきさかり,つや姫,にこまるは有意にb*値が低い値を示した.

図3.

b*値の品種間差異

1)エラーバーは標準偏差を示す.

2)異なるアルファベット間はTukeyのHSD検定によりp < 0.05で有意差があることを示す.

3. 出穂期とb*値の関係

1に示した9品種および福井県農業試験場で育成中の32系統についてb*値を測定した結果,出穂期とb*値との間には1%水準で有意な負の相関が見られた(図4).また,b*値と登熟気温との関係を検討したところ,出穂後20日間の平均気温とb*値の間に5%水準で有意な正の相関(r = 0.37*)が見られ,出穂後26~30日の平均気温とb*値の間に5%水準で有意な正の相関(r = 0.31*)が見られた(図5a).さらに出穂後26~30日の平均気温が28.5℃以上でb*値が1.03以下のものを除くと,1%水準で有意な正の相関(r = 0.67**)が見られた(図5b).これらより,出穂期が遅くなり,出穂後26~30日の平均気温が低い程,炊飯米が白くなることが明らかとなった.

図4.

出穂期とb*値との関係

1)**1%水準で有意であることを示す.

図5.

出穂後の平均気温とb*値との関係

1)**1%,*5%水準で有意であることを示す.

2)(b)の相関係数は▲を除いたものを示す.

考察

筆者らは,スキャナと画像解析ソフトを用いた炊飯米の白さの評価法を新たに開発した.本手法における炊飯米の白さを表すb*値は食味官能試験の白さと高い相関関係を示した.また,分光測色計による測定では米飯粒同士の隙間や圧縮する力の違いなどにより表面の均一性が異なることによる誤差が問題であった(森谷ら 2008).しかし,本手法におけるb*値の標準偏差は3反復で0.07~0.23であり,分光測色計の6反復測定におけるb*値の標準偏差(Goto et al. 2014)よりも小さかった.その要因として,次の2つが考えられる.1つ目は,分光測色計を用いた手法では(Goto et al. 2014),炊飯米を成形器に充填し,圧縮しているのに対し,本手法では,炊飯米の表面に力を加えないことにより,圧縮工程によるノイズをなくし,サンプル間の均一性を保ったことである.2つ目は,測定径を大きくしたことである.分光測色計を用いた手法では,測定径が直径8 mm,この中に入る炊飯米は約3粒であるのに対し,本手法における測定径は直径35 mm,この中に入る炊飯米は約40粒であった.このように,測定する粒が多いことから標準偏差が小さくなったと考えられる.以上の2要因により,本手法の標準偏差は従来の分光測色計を用いた手法より小さく,また,品種間差を見る上で問題のない程度であった(図3).

本手法は,1つのサンプルに必要な炊飯米が27 gと少量であり,短時間で多点数の測定が可能である利点を有している.また,市販のスキャナで測定が可能で,高額な専用機器を必要としない.以上から,本手法は炊飯米の白さを評価するのに簡便で有効な手法である.現在,試料の量が限られる個体選抜段階での適用を目指し,試料の量をさらに減らせるかどうか,および炊飯作業を省略し,精米(白米)でのb*値測定が可能かどうかを検討中である.

重宗ら(2007)は,外観総合および食味総合に有意な相関があることを報告している.そこで,炊飯米の白さと良食味性との関係を検討するために,食味官能評価値とb*値との相関関係を調べた結果,外観総合およびつやについて有意な負の相関が見られた(表2).よって炊飯米の白さは外観総合を評価する上で重要な要素であり,つやの評価にも影響していることが明らかとなった.Yanagihara(2000)は,食味官能評価における白さが–3~+2と比較的差が大きい品種群を用いて白さの機械的測定法の開発を行っている.本手法においては,食味官能試験における白さが–0.9~+0.7と比較的小さい範囲の品種を用いて,白さを示すb*値と食味総合との間に有意な相関が見られた(表2).よって炊飯米の白さは,その差が比較的小さい品種間においても食味総合を評価するのに重要であることが確認できた.

1に示した9品種および育成中の32系統では,出穂期が遅くなると有意にb*値が低下した(図4).その要因について検討するために登熟気温とb*値との関係を見たところ,出穂後26~30日間の平均気温とb*値との間に5%水準で有意な正の相関があり,さらに一部の品種・系統を除くと1%水準で有意な相関が見られた(図5).よって炊飯米の白さは登熟後期の気温に影響されると考えられる.図5(b)において除いた品種・系統は,出穂後26~30日間の平均気温が高いにも関わらず,b*値が低い値を示していた.これらの品種・系統について,福井県農業試験場で高温耐性試験を行った結果を見ると,高温耐性は中以下~やや強と評価されており,特に強いという評価ではなく(データ省略),高温耐性との関係は明確ではなかったことから,登熟気温とb*値との関係については今後さらに検討する必要がある.

本研究で開発した手法は,導入が容易な市販のスキャナおよび新たに開発した画像解析ソフトを用いることで良食味性の重要な要素である炊飯米の白さの的確な評価が可能である.また,用いる試料が少量であることから,初期世代での食味の補助的な選抜法として有用であり,良食味品種の育成に貢献できる.さらに,炊飯米の白さを左右する遺伝的および環境的要因の解析への活用が期待される.

謝辞

種子を提供いただいた山形県農業総合研究センター,佐賀県農業試験研究センター,(独)農研機構 作物研究所,(独)農研機構 九州・沖縄農業研究センターに深く御礼申し上げます.英文要約を校閲していただきました,新潟大学の大坪研一教授に感謝いたします.本研究の一部は農林水産省次世代ゲノム基盤プロジェクト(NGB-3001)により行われました.

引用文献
 
© 2014 Japanese Society of Breeding
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