Breeding Research
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Research Paper
Identification of quantitative trait loci for bean paste color in the adzuki bean (Vigna angularis)
Hirokazu NagaokaMasahiko MoriYasuyoshi NagaokaKiyoaki Kato
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2022 Volume 24 Issue 2 Pages 124-133

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摘 要

本研究は,アズキの品質関連形質として重要なアン色に関わる量的形質遺伝子座の特定を目的とした.そのために,北海道の品種「エリモショウズ」とアン色が紫色で優れる「紫さやか」との交雑に由来する組換え自殖系統150系統を北海道十勝地方の気温の異なる2地点で2カ年の計4環境下で栽培し,アン色と強く関連する煮豆色と種皮色に関与する量的形質遺伝子座の検出を試みた.供試材料の種皮色と煮豆色について,L*C*h表色系を用いて,明度(L*),彩度(C*),色相角(h)を評価した.DNAマーカーには,「紫さやか」と「エリモショウズ」のリシーケンス解析データに基づいて設計したInDelマーカー34種とCAPSマーカー1種,dCAPSマーカー1種を用いた.DNAマーカーの連鎖分析の結果,全長363.6 cMをカバーする7連鎖群から構成される連鎖地図となった.「紫さやか」は,アン色の特徴とされる煮豆の色相角は,「エリモショウズ」より小さいため,うすい紫色を呈し,かつ登熟期間の積算温度への反応性の小さい品種であると示された.種皮色と煮豆色に関わるQTLとして,それぞれ9個と8個が特定され,種皮色のQTLと煮豆色のQTLとのクラスターが3領域で確認された.煮豆色のQTLについて,紫色のアン色に強く影響を及ぼす色相角では,「紫さやか」型対立遺伝子が色相角を下げるqBBH1qBBH3qBBH4,色相角を上げるqBBH2が検出された.また,煮豆色の明度と色相角に関わるqBBL1qBBH4は,登熟期間が高温で少ない日射量となった1環境を除いた3環境下で検出され,一方,qBBH2は,高温で少ない日射量となった環境のみで検出され,環境により作用するQTLが異なることが明らかになった.

Abstract

Bean paste color is one of the most important quality traits in adzuki beans (Vigna angularis). The present study was aimed at identifying quantitative trait loci controlling bean paste color and its associated seed color using recombinant inbred lines (RILs) crossed between cv. ‘Murasakisayaka’ (superior bean paste color) and cv. ‘Erimoshozu’. RILs and parental cultivars were grown over two years and in two locations in Hokkaido, Japan. Seed coat color and boiled bean color were evaluated using the L*C*h color space. A total of 36 PCR-based molecular markers, including 34 insertions/deletions, CAPS, and derived CAPS markers, were developed through re-sequencing data of the parents. Using these DNA markers, seven linkage groups (LGs) covering a total length of 363.6 cM were constructed. The hue angle of the boiled bean (BBH) of the bean paste color of ‘Murasakisayaka’ was consistently lower than that of ‘Erimoshozu’ across four trials. For seed coat color, 2 QTLs for L*, 4 QTLs for C*, and 3 QTLs for h were identified on LGs 3, 4, 7, 8, 10, and 11. For boiled bean color, a single QTL for L*, 3 QTLs for C*, and 4 QTLs for h were identified on LGs 1, 3, 10, and 11. These QTL findings should facilitate gene isolation and breeding application for the improvement of the bean paste quality of adzuki bean cultivars.

緒言

アズキ(Vigna angularis (Willd.) Ohwi & Ohashi)は,国内ではダイズに次ぐ生産量を維持する重要なマメ科作物である.近年,北海道のアズキの作付面積は,20,000 ha前後で推移し,国内生産量の約90%を占めている(農林水産省 2021).アズキの加工適性のうち,アン色は最も重要な形質の一つである.北海道のアズキ品種「しゅまり」(藤田ら 2002)のアン色は,鮮やかな「紫色」として,実需者から高く評価されている(畑井 1987).「紫さやか」は,「しゅまり」と「エリモショウズ」との交雑組合せから育成された,「しゅまり」のアン色を特徴とする品種である(長岡ら 2020,図1).

図1.

「紫さやか」(A),「エリモショウズ」(B)の種皮色と「紫さやか」(C),「エリモショウズ」(D)の粒アン色.

2021年北海道芽室町産.スケールは1 cmを示す.

アン色の明度と赤味度は,種皮色と強い正の相関関係が示されている(加藤ら 1992).開花後10日間の日射量が明度に強い影響を与え,この間の日射量が多いと明度は低下する(浅間・北村 1984).また,登熟期間が高温になると色相は赤味を増し,明度と彩度が低下することで濃赤色の種皮色となる(長岡ら 2004).そのため,アン色の選抜は,複数環境の評価が必要とされてきた.そのため,アン色は,遺伝的に固定した後期世代から選抜されてきた.また,アン色の評価には,収穫,乾燥,脱穀,選別,煮熟,製餡などの作業に多大な時間と労力を要することが選抜上の問題点となっている.アズキの種皮色は,検査等級を決定する重要な形質の一つで,明度23~28,彩度21~27,色相角27~36の範囲内で規格内とされる.一方で,各値が小さいと濃赤色,大きいと淡赤色を呈し,両者は流通規格外となる.また,規格内の煮豆色の色相角は,20~32の範囲にあるが(長岡ら 未発表),実需者からの要望により煮豆色の色相角は,23~26の範囲内を育種目標としている(長岡ら 未発表).長岡ら(2020)は,「紫さやか」の育成において,F8世代から,アン色の選抜のために,製アン前の煮豆色について,官能試験と色彩色差計による測定結果の評価により選抜した.

アン色の初期世代からの選抜と形質評価に関わる作業の省力化が可能なDNAマーカー支援選抜(Marker assisted selection: MAS)法の開発が求められている.アズキの遺伝解析に利用できるDNAマーカーとして,単純配列反復(Simple sequence repeat: SSR)マーカーが開発され(Han et al. 2005),当該マーカーを用いて,開花期のほか収量関連形質,あるいは品質と関わる種皮色の量的形質遺伝子座(Quantitative trait locus: QTL)が特定されてきた(Horiuchi et al. 2015, Isemura et al. 2007, Kaga et al. 2008, Yamamoto et al. 2016).最近になって,北海道の品種「しゅまり」について,ゲノム全体95.1%に相当する522.8 Mbpが解読された(Sakai et al. 2015).また,Restriction site associated DNA(RAD)シーケンシングとSpecific locus amplified fragment(SLAF)シーケンシングによる高密度連鎖地図の構築と収量関連形質のQTLが特定されている(Li et al. 2017, Liu et al. 2016).

これまでアズキの種皮色に関わる遺伝子として,祖先野生種V. angularis var. nipponensisのアイボリー色と栽培品種の赤色に関わる主働遺伝子SDCとQTLsdc3.1.1,ブータンの在来種のオリーブ色と栽培品種の赤色に関わる連鎖するQTLOLB1OLB2が,第1連鎖群上に特定されている(Horiuchi et al. 2015, Isemura et al. 2007, Kaga et al. 2008).さらに,赤色の栽培品種から見出された2種の種皮色の突然変異体のうちアイボリー色には第8連鎖群の主働遺伝子IVY,淡いオリーブ色には第10連鎖群の主働遺伝子POBが報告されている(Horiuchi et al. 2015).一方で,アン色に関する遺伝的解析は報告されていない.

本研究では,アズキ品種「紫さやか」と「エリモショウズ」の全ゲノムリシーケンス解析を行い,両品種間で検出された挿入欠失変異(Insertion and Deletion: InDel)と一塩基多型変異(Single nucleotide polymorphysm: SNP)から,アガロースゲル電気泳動で増幅産物が識別できるポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction: PCR)ベースのDNAマーカーの開発に取り組んだ.続いて,当該DNAマーカーを用いて,「紫さやか」と「エリモショウズ」の交雑に由来する組換え自殖系統群(Recombinant inbred lines: RILs)を,2地点で2カ年栽培し,種皮色と煮豆色に関するQTLを特定し,QTLの効果について,環境との交互作用を考察した.

材料および方法

1. 供試材料

アズキ品種「エリモショウズ」とアン色が紫色で優る「紫さやか」を親品種として用いた.両品種間の交雑F2から単粒系統法による世代促進で得られた組換え自殖系統150系統のF6(2020年)とF7(2021年)を供試した.

2. 栽培方法

供試材料を2020年と2021年に,北海道芽室町(北緯42°92′,東経143°01′)と北海道幕別町(北緯42°67′,東経143°31′)の2地点で栽培した.2地点の土壌は褐色火山性土である.

2地点における7月21日から9月30日までの登熟期間における平年の積算温度と積算日射量は,前者で1,312℃と970 MJ(農研機構メッシュ農業気象データ(大野ら 2016),https://amu.rd.naro.go.jp/)に対して,後者では1,227℃で986 MJとアズキの寒冷限界地帯とされている.

親品種とRILsの各系統を畝幅66 cmで株間10 cmの単粒で10株ずつ,3反復分を5月下旬に播種した.アズキの成熟莢については,色のパラメータがほとんど変化しないことから(長岡ら 2004),収穫時期による種皮色の影響を少なくするため,系統・反復ごとに熟莢率95%以上に達した日に収穫し,屋外の網室で30日間乾燥した後,脱穀と唐箕選別した.

3. 種皮色と煮豆色の評価

各品種系統の反復ごとに,ランダムに選別した子実15 gをガラスセルに入れて,色彩色差計CR-5(コニカミノルタ社)を用いて,C光源2° 視野の測定条件で,明度(seed coat L*, SCL),彩度(seed coat C*, SCC),色相角(seed coat h, SCH)を2試料ずつ計測した.長岡ら(2020)に従って,子実30 gを150 mlの水で70分間煮熟して調整した煮豆15 gを,ガラスセルに入れて,明度(boiled bean L*, BBL),彩度(boiled bean C*, BBC),色相角(boiled bean h, BBH)を2試料ずつ計測した.L*C*h表色系を用いた評価方法では,明度(L*)は明るさの度合いを示し,数値が高いと明るく,低いと暗く,彩度(C*)は鮮やかさの度合いを示し,数値が高いと鮮やか,低いとくすんでいる,色相角(h)は色彩を示し,種皮色では数値が高いと赤みが弱く,低いと赤みが強く,煮豆色では数値が高いと赤みが弱く,低くなるにつれて色味が赤色からうすい紫色を呈する.

4. DNAマーカーの開発

「紫さやか」と「エリモショウズ」のそれぞれ10個体からサンプリングした幼葉をバルク化して,DNeasy Plant Maxi Kit(キアゲン社)を用いてDNAを抽出し,リシーケンス解析に用いた.次世代シーケンス解析は,フィルジェン社(愛知県名古屋市)に委託した.配列ライブラリーは,Library Prep Kit(NEBNext社)を用いて調整し,Illumina HiSeqシステム(イルミナ社)にて,リード長150 bpのペアエンドシーケンスを行った.得られた「紫さやか」と「エリモショウズ」のゲノム配列データを用いて,「しゅまり」(Sakai et al. 2016)(Vigna Genome Server, VIGGS: https://viggs.dna.affrc.go.jp/)をリファレンス配列とし,GATK 4.1.4.1ソフトウェア(McKenna et al. 2010)を用いて,変異箇所を検出した.次にSAMtools software 0.1.19ソフトウェア(Li et al. 2009)を用いて,SNPとInDelを検出し,両親間のInDelとSNPを用いて,DNAマーカーを設計した.まず,PCR産物のサイズの差異がアガロースゲルで判別可能な10 bp以上のInDelを約5 Mbp間隔で選択し,次にこれらInDelのギャップを埋めるために,4から9 bpのInDelマーカーを開発した.さらに,InDelマーカーのギャップを埋めるために,CAPSマーカーとdCAPSマーカーを開発した.DNAマーカーによるプライマーの作成方法は,Kinoshita et al.(2016)の方法,マーカーの増幅および検出方法は,Mori et al.(2021)の方法に準じて行った.マッピング集団のDNAは,F6世代の各系統について3個体の幼葉をバルク化し‍て,臭化セチルトリメチルアンモニウム(Cetyl torimethylammonium bromide: CTAB)法(Murray and Thompson 1980)で抽出した.

5. 連鎖地図の構築とQTL解析

DNAマーカーの連鎖解析には,JoinMap® 4(van Ooijen 2006)を用いて,LOD値2.2を閾値とした連鎖地図を構築した.地図関数は,Kosambi関数を用いた(Kosambi 1943).QTL解析には,MapQTL® 6(van Ooijen 2002)を用いて,intervelマッピング法およびMultiple-QTL models(MQM)マッピング法を行った.LOD値の閾値は,形質ごとにPermutation testにより算出した(Churchill and Doerge 1994).

結果

1. 登熟期間の気温と日射量

各栽培地区における7月21日から9月30日までの登熟期間の積算温度と積算日射量を付図1に示した.積算温度は,芽室では2020年で1,385℃,2021年で1,340℃と,両年とも平年(1,312℃)より高く,幕別でも2020年で1,295℃,2021年で1,246℃と,平年(1,227℃)より高かった.日射量は,芽室では平年(970 MJ)と比較して2020年で933 MJと少なく,2021年で1,044 MJと多く,幕別でも平年(986 MJ)と比較して,2020年で935 MJと少なく,2021年で1,034 MJと多かった.また,積算温度は,2カ年とも芽室で幕別よりも高く,積算日射量は,両年次とも地点間に差異はなかった.

2. 親品種の特性

4環境下における「紫さやか」と「エリモショウズ」の表現型を表1に示した.SCLならびにBBLとBBCについては,4環境で品種間に差異はなかった.SCCについては,2020年の芽室のみで「紫さやか」が高くなった(p < 0.05).SCHとBBHは,4環境ともに「紫さやか」が「エリモショウズ」より低かった(p < 0.05).さらに,両品種のSCHとBBHは,幕別が芽室より高く,赤味が弱くなった.このうち,BBHの4環境下の変動係数は,「紫さやか」で0.007~0.009となり,「エリモショウズ」(0.024~0.061)より小さかった.

表1. 「紫さやか」と「エリモショウズ」における調査形質の平均値と標準偏差
形質 年次 芽室 幕別
紫さやか エリモショウズ 紫さやか エリモショウズ
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差
種皮色 明度 2020 23.9 0.5 25.2 1.1 25.8 0.6 27.2 0.5
SCL (L*) 2021 27.0 0.3 27.1 0.6 27.1 0.2 27.2 0.1
種皮色 彩度 2020 21.0 1.6 22.2 1.8 27.5 0.6 25.4 0.5 *
SCC (C*) 2021 27.5 0.4 27.1 0.4 26.4 0.3 26.6 0.3
種皮色 色相角 2020 29.1 0.6 31.2 1.1 * 33.0 1.7 36.8 2.1 *
SCH (h) 2021 32.7 0.6 35.2 0.4 ** 33.2 0.4 36.9 0.9 **
煮豆色 明度 2020 23.8 0.4 24.0 1.8 28.0 0.4 29.2 0.9
BBL (L*) 2021 26.2 0.2 27.2 0.5 26.2 0.2 26.6 0.2
煮豆色 彩度 2020 13.6 0.5 14.2 1.2 14.4 0.6 15.1 0.6
BBC (C*) 2021 12.6 0.1 13.4 0.5 13.1 0.1 13.7 0.2
煮豆色 色相角 2020 24.2 0.2 29.2 0.8 ** 24.9 1.1 30.5 1.9 **
BBH (h) 2021 24.4 0.2 28.9 1.0 ** 25.2 0.8 31.6 1.3 **

*, **はt検定でそれぞれ5%,1%水準で「紫さやか」と有意差があることを示す.

3. シーケンス解析

全ゲノム解析では,「紫さやか」と「エリモショウズ」から,それぞれ95,338,513と88,007,196のリードペア数を取得し,28.5 Gb,26.3 Gbのデータを得た.リシーケンス解析では,「紫さやか」と「エリモショウズ」から,それぞれ186 Mbと172 Mbのリード数を取得し,「しゅまり」のリファレンス配列に対してアラインメントした結果,それぞれ平均98.2%と98.3%のマッピング率となり,平均Depthはそれぞれ46.7と44.0となった.

4. 連鎖地図の構築

InDelマーカー34種(付表1),CAPSマーカー1種,dCAPSマーカー1種(付表2)について,RILsの遺伝子型を判定し,7連鎖群,全長363.6 cMの連鎖地図を構築した(図4).

5. 形質間の相関関係とQTLの検出

各環境下におけるRILsの形質値間の相関係数を付表3に示した.「紫さやか」の煮豆色の特徴とされるBBHは,4環境を通してSCHあるいはBBLとの間にそれぞれ正の相関関係を示した.また,同じ形質間で年次と地域の総当たりによる相関について,SCHとBBHは,それぞれ全通りで正の相関関係を示した.RILsの種皮色と煮豆色の頻度分布をそれぞれ図23に示した.6形質ともに2020年が2021年よりも幅広く分離し(図23),超越分離系統が観察された.

図2.

組換え自殖系統群における種皮色の明度,彩度,色相角の頻度分布.

「紫さやか」および「エリモショウズ」の平均値をそれぞれ▽および▼で示し,下線は標準偏差の範囲を示す.

図3.

組換え自殖系統群における煮豆色の明度,彩度,色相角の頻度分布.

「紫さやか」および「エリモショウズ」の平均値をそれぞれ▽および▼で示し,下線は標準偏差の範囲を表す.

QTL解析の結果を表2と図4に示した.SCLについては,第10連鎖群上のDNAマーカーAZ10_23.8M_IDとAZ10_28.5M_ID間に「紫さやか」型対立遺伝子がSCLを下げるqSCL1を検出した.また,第11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_0.3M_IDとAZ11_4.5M_ID間に「紫さやか」型対立遺伝子がSCLを上げるqSCL2を検出した.各QTLの寄与率は,qSCL1で7.5%(2021年芽室),qSCL2で6.5%(2021年幕別)となった.

表2. F6とF7における種皮色と煮豆色に関するQTL
形質 QTL 連鎖群 年次 芽室 幕別
ピーク位置(cM) 近接マーカー LOD値 相加効果1) 寄与率(%) ピーク位置(cM) 近接マーカー LOD値 相加効果1) 寄与率(%)
SCL qSCL1 10 2021 76.0 AZ10_28.5M_ID 2.6 −0.1 7.5
qSCL2 11 2021 4.7 AZ11_4.5M_ID 2.2 0.2 6.5
SCC qSCC1 4 2021 29.3 AZ04_10.2M_ID 2.5 0.2 5.7
qSCC2 7 2021 38.6 AZ07_33.1M_ID 3.0 −0.1 7.6
qSCC3 8 2020 8.0 AZ08_11.1M_ID 4.4 −0.6 12.5
qSCC4 11 2021 5.4 AZ11_4.5M_ID 3.0 0.2 6.8
SCH qSCH1 3 2021 7.0 AZ03_6.1M_ID 5.5 −0.3 7.7
qSCH2 10 2021 65.0 AZ10_23.8M_ID 9.3 −0.5 13.8 62.0 AZ10_23.8M_ID 2.8 −0.3 4.7
qSCH3 11 2020 27.1 AZ11_36.5M_ID 4.4 −0.4 9.2
2021 28.1 AZ11_36.5M_ID 5.8 −0.4 8.1 31.1 AZ11_36.5M_ID 7.6 −0.5 15.1
BBL qBBL1 11 2020 27.1 AZ11_36.5M_ID 3.0 −0.5 8.7
2021 29.1 AZ11_36.5M_ID 3.1 −0.2 9.0 28.1 AZ11_36.5M_ID 2.6 −0.2 6.2
BBC qBBC1 1 2021 0.2 AZ01_9.6M_ID 2.4 0.1 5.8
qBBC2 10 2021 62.0 AZ10_23.8M_ID 4.2 0.2 12.1
qBBC3 11 2021 31.1 AZ11_36.5M_ID 3.4 −0.1 9.2
BBH qBBH1 3 2021 1.0 AZ03_1.1M_ID 2.9 −0.5 4.4
qBBH2 10 2020 3.0 AZ10_0.8M_CA 2.3 0.6 6.7
qBBH3 10 2021 74.0 AZ10_28.5M_ID 4.2 −0.5 8.1
qBBH4 11 2020 21.1 AZ11_35.4M_ID 2.3 −0.7 6.9
2021 26.1 AZ11_35.4M_ID 4.8 −0.6 9.4 25.1 AZ11_35.4M_ID 3.6 −0.5 5.5

1) 「紫さやか」型対立遺伝子の相加効果.

図4.

種皮色と煮豆色に関するQTLの位置.

△は「紫さやか」型対立遺伝子が形質値を上げ,▽は値を下げることを示す.三角形の高さは相加効果の大きさを表す.

QTL領域の横線はLODのピークを示す.

SCCについては,第4連鎖群上のDNAマーカーAZ04_6.9M_IDとAZ04_22.7M_ID間にqSCC1,ならびに第11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_0.3M_IDとAZ11_35.4M_ID間にqSCC4を検出した.これらのQTLでは「紫さやか」型対立遺伝子が,SCCを上げた.qSCC1の寄与率は5.7%(2021年幕別),qSCC2の寄与率は6.8%(2021年幕別)となり,同一環境で検出された.さらに,第7連鎖群上のDNAマーカーAZ07_0.4M_IDとAZ07_33.1M_ID間にqSCC2,ならびに第8連鎖群上のDNAマーカーAZ08_6.0M_IDとAZ08_17.2M_ID間にqSCC3を検出した.これらのQTLでは「紫さやか」型対立遺伝子が,SCCを下げた.qSCC2の寄与率は7.6%(2021年芽室),qSCC3の寄与率は12.5%(2020年幕別)と単一環境で検出された.

SCHについては,第3連鎖群上のDNAマーカーAZ03_1.1M_IDとAZ03_6.1M_ID間にqSCH1,第10連鎖群上のDNAマーカーAZ10_23.8M_IDとAZ10_28.5M_​ID間にqSCH2,第11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_​35.4M_IDとAZ11_36.5M_ID間にqSCH3を検出した.いずれのQTLにおいても,「紫さやか」型対立遺伝子が,SCHを下げた.qSCH1の寄与率は,7.7%(2021年芽室),qSCH2の寄与率は,4.7%(2021年幕別)と13.8%(2021年芽室),qSCH3の寄与率は,8.1%(2021年芽室),9.2%(2020年芽室),15.1%(2021年幕別)となった.

BBLについては,「紫さやか」型対立遺伝子がBBLを下げるqBBL1を第11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_35.4M_IDとAZ11_36.5M_ID間に検出した.qBBL1の寄与率は,6.2%(2021年幕別),8.7%(2020年幕別),9.0%(2021年芽室)となった.

BBCについては,「紫さやか」型対立遺伝子がBBCを上げるqBBC1を第1連鎖群上のDNAマーカーAZ01_9.6M_IDとAZ01_14.7M_ID間,ならびにqBBC2を第10連鎖群上のDNAマーカーAZ10_23.8M_IDとAZ10_28.5M_ID間に検出した.また,「紫さやか」型対立遺伝子がBBCを下げるqBBC3を11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_35.4M_IDとAZ11_36.5M_ID間に検出した.各QTLの寄与率は,qBBC1で5.8%(2021年芽室),qBBC2で12.1%(2021年幕別),qBBC3で9.2%(2021年芽室)と単一環境で検出された.

BBHについては,「紫さやか」型対立遺伝子がBBHを下げるqBBH1を第3連鎖群上のDNAマーカーAZ03_1.1M_IDとAZ03_6.1M_ID間,qBBH3を第10連鎖群上のDNAマーカーAZ10_23.8M_IDとAZ10_28.5M_​ID,およびqBBH4を第11連鎖群上のDNAマーカーAZ11_35.4M_IDとAZ11_36.5M_ID間に検出した.また,「紫さやか」型対立遺伝子がBBHを上げるqBBH2を第10連鎖群上のDNAマーカーAZ10_0.8M_CAとAZ10_​4.6M_ID間に検出した.各QTLの寄与率は,qBBH1で4.4%(2021年幕別),qBBH2で6.7%(2020年芽室),qBBH3で8.1%(2021年芽室),qBBH4で5.5%(2021年幕別),6.9%(2020年幕別),9.4%(2021年芽室)となった.

6. qBBH1qBBH3qBBH4の遺伝子型ごとのBBHの比較

「紫さやか」型対立遺伝子が,BBHを小さくする作用を示したqBBH1qBBH3qBBH4の集積効果を検証するために,各QTLの近傍のDNAマーカーのホモ接合体となった8遺伝子型の4環境におけるBBHを図5に示した.全て「紫さやか」型にもつMMM系統群のBBHは,24.8~27.7と8遺伝子型のうち最も小さい値となった.

図5.

組換え自殖系統におけるqBBH1qBBH3qBBH4の近傍マーカーの遺伝子型と4環境におけるBBHの平均値+標準偏差.

遺伝子型は,左から順にAZ03_1.1M_ID(qBBH1),AZ10_28.5M_ID(qBBH3),AZ11_35.4M_ID(qBBH4)を示した.

遺伝子型のMは「紫さやか」,Eは「エリモショウズ」を示す.Muは「紫さやか」,Erは「エリモショウズ」を示す.

各栽培環境における8遺伝子型のBBHについて,アルファベットの異文字間に5%水準で差異のあることを示す(Tukey-Kramer法).

考察

1. 「紫さやか」の煮豆色は環境の影響を受けにくい

RILsのSCHとBBHは,どちらも登熟期間の温度が高かった芽室が幕別より値が低くなることで赤味が強くなり,さらにSCHと連動してBBHも高くなった(加藤ら 1992).この結果は,登熟期間の高温が種皮色の赤味を増すこととよく一致した(長岡ら 2004).

本研究によって,登熟期間の積算温度と日射量の異なる4環境下でも,「紫さやか」のアン色の特徴とされるBBH(長岡ら 2020)が「エリモショウズ」より小さいことで,アン色はうすい紫色となり,かつ「エリモショウズ」ではBBHの変動幅が大きいのに対し,「紫さやか」では小さいことが確認できた.「エリモショウズ」のBBHが,高くなったのは2年とも幕別でとなったことから,幕別では,登熟期間の積算温度が芽室より低いことが,「エリモショウズ」の高いBBHに関わるものと考察された.これまでに,「エリモショウズ」では,登熟期間が低温で推移する栽培地帯では検査等級の下がることが指摘されている(青山ら 2009).従って,「紫さやか」では,BBHの登熟期間の積算温度への反応性の小さいことが,流通規格内歩留の確保を安定化できる品種と期待できた.

2. 種皮色と煮豆色に関わるQTL領域は一部で異なる

本研究によって,種皮色に関わるQTLとして,明度にはqSCL1qSCL2,彩度にはqSCC1qSCC2qSCC3qSCC4,色相角にはqSCH1qSCH2qSCH3の計9個のQTLが特定された.本研究で特定した種皮色に関わるQTLのうち,4個が2領域にクラスターを形成したことから,種皮色には7領域が関わる結果となった.このうち,qSCH2近傍には種皮色の突然変異遺伝子POBが報告されており(Horiuchi et al. 2015),同じ遺伝子座か否かの検証が必要である.既報の遺伝子座とは一致しなかった他のQTLは,新規の遺伝子座と考察された.

煮豆色に関わるQTLとして,明度にはqBBL1,彩度にはqBBC1qBBC2qBBC3,色相角にはqBBH1qBBH2qBBH3qBBH4の計8個のQTLが特定された.このうち,5個が2領域にクラスターを形成したことから,5領域が煮豆色に関わることが示された.さらに,種皮色のQTLと煮豆色のQTLのクラスターが,3領域で確認できた.種皮色のみに関わる領域は,qSCC1qSCC2qSCC3,[qSCC4qSCL2]の4領域となった.一方,煮豆色のみに関わるQTLは,qBBC1qBBH2の2領域となった.残り3領域には,種皮色と煮豆色の双方に関わるQTLがクラスターを形成していることから,両者に関わるQTLの可能性が高い.今後,QTLクラスターについて,遺伝子地図を詳細化し,原因遺伝子の異同を検証する必要がある.

3. QTLと環境との交互作用

種皮色に関わる9個のQTLのうち,7個が単一環境,1個が2環境,1個が3環境で検出された.また,煮豆色に関わる8個のQTLのうち,6個が単一環境,2個が3環境で検出された.従って,種皮色と煮豆色に関わるQTLの作用が,環境に影響されることが示された.

単一環境で検出されたQTLのうち,qSCL1qSCC2qSCH1ならびにqBBC1qBBC3qBBH3は,2021年芽室で検出された.2021年芽室については,4環境のうち,積算温度が高くかつ日射量が多かったことから,これらのQTLが,当該環境下で作用するものと考察された.また,qSCL2qSCC1qSCC4ならびにqBBC2qBBH1は,2021年幕別のみで検出された.2021年幕別については,4環境のうち,積算温度が低くかつ日射量が多かったことから,これらのQTLが,当該環境下で作用するものと考察された.qBBH2は,2020年芽室で検出された.2020年芽室は,高温かつ日射量が少なかったことから,当該環境下で作用するものと考察された.

qSCH2は,2021年の2地点で検出された.2021年は,2020年と比較して2地点とも積算日射量が多かったことから,qSCH2が,温度の影響を受けないが,日射量の多い環境下で作用するものと考察された.qSCH3は,2020年幕別以外の3環境で検出されたことから,2020年幕別のような低温と少ない日射量では作用しないものと考察された.一方で,qBBL1qBBH4は,2020年芽室以外の3環境で検出された.2020年芽室のような高温で日射量が少ない環境では作用しないものと考察された.アズキの種皮色と環境との交互作用については,収穫を早めると種皮色が明るくなる(由田ら 1991),播種日が遅くなるに従って種皮色は明るくなる(佐藤ら 1993),開花日が遅くなるに従って種皮色が明るくなる傾向がある(加藤・目黒 1994)などの間接的な登熟期間の温度との交互作用について報告されている.さらに,直接的に登熟期間の温度との交互作用については,開花15日以降の2週間に28℃以上の日が多くなると種皮色が濃赤色となり(長濱 2003),登熟期間が高温になるほど色相は赤味を増し,明度と彩度は低下し濃赤色となる(長岡ら 2004)と報告されている.今後,本研究で特定した各QTLと環境の相互作用について,環境制御下での検証を実施する必要がある.

4. アン色のDNAマーカー選抜育種への期待

これまでアズキの加工適性に関与するQTLの報告はなかったが,本研究では,加工適性のうち重要形質のアン色と関連する煮豆色,ならびに種皮色に関わる新たな17個のQTLをマッピングした.qBBH1qBBH3qBBH4の最近傍のDNAマーカーを全て「紫さやか」型にもつ系統群は,4環境で,他の遺伝子型の系統群と比較して最小のBBHとなったことから,当該マーカーの選抜マーカーとしての有効性が示された.今後,「紫さやか」のアン色に関わるqBBH1qBBH3qBBH4を識別するDNAマーカーを活用することで,「紫さやか」の紫色のアン色を維持しながら,他の有用形質を導入や改良の迅速化が期待できる.さらに,今後,「紫さやか」の特徴である色相角に関わるQTLの責任遺伝子を同定することで,アン色の制御機構の分子機構を解明するとともに,遺伝子型の高精度な選抜技術の確立も期待される.本研究で特定したQTLの一般性や普遍性を検証するため,今後は,異なる交雑組合せに由来する分離集団における効果を解析する必要がある.

謝 辞

本研究の遂行にあたり,リシーケンス解析では帯広畜産大学の吉田透氏,遺伝子型解析では株式会社バイオテックの入来院美奈氏,植物材料の世代促進では沖縄県宮古島市の川満定秀氏,植物材料の栽培管理では北海道清水町の株式会社バイオファームと北海道幕別町の長崎重喜氏に,それぞれ多大なご協力をいただきました.

電子付録

付表1. 本研究で開発したInDelマーカー.

付表2. 本研究で開発したCAPSマーカーとdCAPSマーカー.

付表3. 組換え自殖系統群における種皮色と煮豆色の各形質間の相関.

付図1. 試験栽培した4環境と平年の登熟期間(7月21日から9月30日)における積算温度と積算日射量.

引用文献
 
© 2022 Japanese Society of Breeding
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