2025 Volume 27 Issue 1 Pages 39-50
サツマイモの主要産地のひとつである南九州(鹿児島県および宮崎県)では,2018年に国内で初めて発生したサツマイモ基腐病により甚大な被害が生じた.青果・食品加工用の主要品種「高系14号」および「べにはるか」はいずれも十分な抵抗性を備えておらず,抵抗性品種が求められていたことから,青果・食品加工用抵抗性品種「べにひなた」を育成した.「べにひなた」は,サツマイモ基腐病への強度の抵抗性と外観品質の高さを特長とするほくほくとしたタイプの品種である.塊根は皮色が“紫赤”で形状整否が“中~やや整”であり,外観の評価は“中~やや上”であった.育成地における収量性は,標準栽培および早掘栽培のいずれの作型でも「高系14号」より優れ,「べにはるか」と同等かやや優れた.サツマイモ基腐病抵抗性は“強”であり,“やや弱”の「高系14号」および“弱~やや弱”の「べにはるか」より優れた.標準栽培および早掘栽培の蒸しいも特性(貯蔵期間1~2週間)は,肉色が“淡黄白”で「高系14号」および「べにはるか」より薄く,肉質は「高系14号」および「べにはるか」と同等の“中”,食味は“やや上”であり,糖度は「高系14号」より高く「べにはるか」より低かった.青果・食品加工用のサツマイモ品種を利用面で主に特徴づけるのは肉質であるが,標準栽培した塊根を3か月間貯蔵しても「べにひなた」の肉質は粘質とならず,「べにはるか」より「高系14号」に近いタイプに位置づけられた.普及見込み地域(宮崎県および鹿児島県)の公設試験研究機関による試験では,外観品質の高さは育成地と同様に高く評価され,肉質は“粉”~“やや粉”の評価であり,上いも重は「高系14号」比79~126%であった.「べにひなた」は,サツマイモ基腐病の被害状況に応じて産地に取り入れられ,「高系14号」を補完する用途で利用されることで,南九州における青果・食品加工用サツマイモの安定生産に貢献すると期待される.
In the southern part of Kyushu region, where about 40% of sweetpotato in Japan is produced, sweetpotato foot rot disease (foot rot disease) caused by Diaporthe destruens has done severe damage to sweetpotato production since 2018. Because the major cultivars for table use ‘Kokei No. 14’ and ‘Beniharuka’ are susceptible to this disease, new cultivars that can replace them are desired by farmers. ‘Benihinata’ is a new sweetpotato cultivar bred by NARO in 2023 for table use with strong resistance to this disease. From the 2 years’ experiments of the infested field by Diaporthe destruens, the foot rot resistance of ‘Benihinata’ was “strong”, which was much better than that of ‘Kokei No. 14’ (“moderately weak”) and that of ‘Beniharuka’ (“weak to moderately weak”). The other main characteristics of ‘Benihinata’ are as follows. The yield was higher than that of ‘Kokei No. 14’, but similar to that of ‘Beniharuka’ in standard and early production periods at the NARO Miyakonojo research station. The skin color of ‘Benihinata’ was “purple red” and the uniformity of storage root shape was “medium to moderately uniform”, and generally the appearance of the root was “medium to moderately good”. The steamed flesh color of ‘Benihinata’ was “light yellow white” which was lighter than those of ‘Kokei No. 14’ and ‘Beniharuka’. Using storage roots stored for 1 to 2 weeks after harvest, the brix value and texture of steamed roots were evaluated. The brix value of ‘Benihinata’ was higher than that of ‘Kokei No. 14’ and lower than that of ‘Beniharuka’. The texture of steamed storage root of ‘Benihinata’ was “medium” which was the same as ‘Kokei No. 14’ and ‘Beniharuka’. Even with a storage duration of three months, the texture of ‘Benihinata’ staid “medium”. This trait is clearly different from ‘Beniharuka’ with “moderately sticky” to “sticky” texture and is rather similar to ‘Kokei No. 14’. ‘Benihinata’ was evaluated in other fields in Miyazaki and Kagoshima prefectures from 2021 to 2023 which are target areas of its extension. The yields were 79% to 126% compared to ‘Kokei No. 14’. The texture of the storage root of ‘Benihinata’ was “powdery” to “moderately powdery”. From these results, ‘Benihinata’ is expected to mainly replace ‘Kokei No. 14’ and to contribute to stable sweetpotato production for table use in the southern part of the Kyushu region.
サツマイモは南九州(鹿児島県および宮崎県)の基幹作物であり,南九州は全国収穫量のおよそ4割を占めるサツマイモの主要な産地でもある(農林水産省 2024b).一方で,南九州は2018年に発生したサツマイモ基腐病により甚大な被害を受け,今後も安定してサツマイモを生産するためにはサツマイモ基腐病への対策が必須の状況にある.サツマイモ基腐病は糸状菌Diaporthe destruensにより引き起こされる病害であり,株元が黒変する初期症状を呈し,病徴が進展すると地上部の枯死や地下の塊根の腐敗が見られる(Maeda et al. 2022, 農研機構ら 2023).初期症状は地上部が繁茂した状態では発見しにくいことから,気付かれないうちに感染が拡大してしまいやすく,感染の拡大による土壌の汚染が進むと防除が難しくなり翌年の感染源となる.感染は圃場に限らず苗床や貯蔵庫でも起こり,苗や種いもの感染に気付かず使用して感染が拡大することもある.
サツマイモ基腐病の国内初の発生報告は沖縄県における2018年11月の病害虫発生予察特殊報であり,12月には鹿児島県で,翌年1月には宮崎県で特殊報が発出された.被害程度は深刻であり,サツマイモ基腐病の鹿児島県内における発生面積の割合は2019年が46.2%,2020年が54.1%,2021年が74.5%で,宮崎県内における2021年の発生面積の割合は75%であった(鹿児島県 2022, 農林水産省 2024a).その結果,宮崎県の青果用主要産地では,2020年および2021年の出荷量が例年の4~6割減少する事例が生じた(宮崎県農業協同組合中央会 2021, 株式会社マイナビ 2024).また,南九州でそのほとんどが生産されている原料用サツマイモは供給不足となり,2022年には芋焼酎の販売休止や値上げが全国紙で報じられる事態となった.
被害が深刻化した要因のひとつに,主要品種がサツマイモ基腐病に対する十分な抵抗性を持たなかったことが挙げられる.サツマイモ基腐病が発生する以前の2017年作では,南九州での作付面積上位5品種は「コガネセンガン」(焼酎原料用),「シロユタカ」(でん粉原料用),「高系14号」(青果・食品加工用),「安納紅」(青果・食品加工用),「べにはるか」(青果・食品加工用)の順であり,これら5品種で全体の90.9%を占めていた(農林水産省 2021).各品種のサツマイモ基腐病に対する抵抗性は,「コガネセンガン」が“やや弱”,「シロユタカ」が“中”,「高系14号」が“やや弱”,「安納紅」が“弱”,「べにはるか」が“弱~やや弱”あるいは“やや弱”と報告されており,いずれもサツマイモ基腐病に対する十分な抵抗性を備えていない(小林ら 2024, 農研機構ら 2023, 鹿児島県 2023).
サツマイモ基腐病対策として,南九州では抵抗性品種の導入が進んでいる.青果・食品加工用については,現在のところ,種子島の地域特産作物としての普及を目指して育成された「安納紅」(上妻ら 2003)を除く「高系14号」および「べにはるか」が置き換えの対象となっている.抵抗性品種としては,それまで関東地方で1,000 ha以上(2020年作)普及していた「べにまさり」(山川ら 2001)があり,2020年の試験で抵抗性を示すことが明らかとなってからは(農研機構ら 2023),南九州でも作付けが広がっている.ただし,「べにまさり」には「高系14号」や「べにはるか」と比較して皮色が薄いといった短所もあり,産地では,青果・食品加工用サツマイモの安定生産の実現に向けて抵抗性品種のラインナップの拡充が求められている.このような状況を受け,農研機構では青果・食品加工用の新しい抵抗性品種の育成に取り組み,「べにひなた」を育成した.
「べにひなた」は,多収で良食味の「べにはるか」を母,高でん粉の「九系09178-1」を父とする交配組み合わせ(交配番号14202)から選抜した品種である(図1).
2014年の交配採種から2020年の選抜までは九州沖縄農業研究センター畑作研究領域サツマイモ育種グループで,2021年からは同センター暖地畑作物野菜研究領域カンショ・サトウキビ育種グループで行った.2015年の実生個体選抜試験において,塊根の外観および結しょ性に優れていたことから「九系14202-9」の系統番号を付して選抜した.2016年に系統選抜予備試験,2017年に系統選抜試験,2018年に生産力検定予備試験に供試し,多収で,でん粉歩留りが高く,貯蔵性に優れていたことから焼酎原料用として選抜し,「九系360」の系統名を付した.翌年から生産力検定試験に供試した.
2020年に生産力検定試験および系統適応性検定試験(鹿児島県),サツマイモ基腐病汚染圃場での抵抗性検定試験に供試した結果,サツマイモ基腐病抵抗性および収量性,外観,食味に優れたことから,「九州201号」の九州番号を付して青果・食品加工用として選抜した.普及見込み地域の公設試験研究機関(宮崎県および鹿児島県)における奨励品種決定試験の結果,宮崎県にて,サツマイモ基腐病の発病率が低く外観や皮色に優れ,普及が見込まれると評価を受けたことから,2023年2月に品種登録出願を行い,同年6月に出願公表された(小林ら 2023).
出願後の2023年にも,栽培特性および品質特性をさらに把握するため,生産力検定試験および蒸しいも試験を行った.
2. 生産力検定試験および形態的特性の調査生産力検定試験として,育成地(宮崎県都城市)の試験圃場にて,標準栽培試験および早掘栽培試験,晩植栽培試験の3作型で収量性を評価した.「べにひなた」に加え,標準品種として「高系14号」を,比較品種として「べにはるか」を供試した.耕種概要を付表1に示す.栽培期間中に株元の黒変が見られた株は適宜抜き取りを行った.収穫時に各区の収穫株数と上いも(50 g以上の塊根)の重量および個数を調査し,その値から上いも重および一株上いも重,上いも一個重,一株当たり上いも個数を算出した.また,面積当たりの量である上いも重に対する補足データとして,欠株率を算出した.切干歩合は,各区について塊根5個を野菜切機(VA-20,日本調理機株式会社)で千切りにしたのちによく混ぜ合わせ,100 gずつ量りとったサンプルを2つ作製し,これを乾燥機内において80°Cで4時間乾燥後,105°Cで一晩乾燥させたのちに秤量し,2サンプルの平均を取ることで求めた.標準栽培試験では,つる重の測定を行った.収穫の前日または当日に,3反復ある試験区のうちの2つの試験区について,畝に対して平行に1.83 m,垂直に1.5 mの枠を試験区内に被せ,枠内の地上部をすべて刈り取って新鮮重を測定し,この値からつる重を算出した.
品種登録出願にかかる形態的特性の調査は,生産力検定試験を行った圃場にて農林水産植物種類別審査基準(農林水産省 2016)に準じて行い,「べにひなた」とその類似品種である「べにはるか」については2021年と2022年の2年間行った.「高系14号」については2022年の1年間調査を行った.
3. 萌芽性および貯蔵性の調査萌芽性の調査は育成地の苗床で行った.ビニールハウス内の無加温の苗床に2月下旬~3月上旬に種いもを30個伏せこみ,透明ビニールのトンネルを被せた.地温および気温の調節は,トンネルおよびビニールハウスの開閉具合の調整により適宜行った.3月下旬から4月中旬にかけて,萌芽した種いもの数を継時的に数え,萌芽のタイミングの早さおよび揃いの良さをそれぞれ萌芽の遅速および萌芽揃いの整否として評価した.同時に苗の伸長速度を観察し,萌芽伸長の遅速として評価を行った.4月上旬~中旬に種いも4~5個分について萌芽数を調査し,萌芽の多少を評価した.以上の結果から,萌芽性の総合評価を行った.
貯蔵性の調査は,生産力検定試験にて標準栽培した塊根を2試験区から10個ずつサンプリングし,育成地の貯蔵庫(半地下倉庫)にて貯蔵して行った.収穫から約4か月後の2月後半に腐敗塊根数を調査し,腐敗塊根割合の2区の平均が0%の場合に“易”,0%より高く10%以下の場合“やや易”,10%より高く25%以下の場合“中”,25%より高く40%以下の場合“やや難”,40%より高い場合“難”と判定した.
4. 病害虫抵抗性の調査サツマイモ基腐病抵抗性は,2021年と2022年の2年間,鹿児島県鹿屋市のサツマイモ基腐病発生地域の現地圃場にて,育成機関により評価を行った.500倍希釈したベンレート水和剤に苗全体を30分間浸漬することで消毒したのちに定植を行い,殺菌剤による防除を行わずに栽培を行った.試験区設計は,2021年は1区当たり30株を3区,2022年は1区当たり24株を3区とした.5月上旬に定植後,10月中旬の収穫まで,株元に黒変が見られた株の数を継時的に調査した.収穫時に,上いも(50 g以上の塊根)を腐敗が見られたものとそれ以外に分別し,それぞれの重量を測定した.以上の結果から,各調査日の株元黒変株率と収穫時の健全塊根重率を算出した.抵抗性は,株元黒変株率を指標品種と比較したうえで,健全塊根重率も考慮して総合的に判定した.「タマアカネ」を“強”,「こないしん」を“やや強”,「シロユタカ」(2021年)または「あまはづき」(2022年)を“中”,「コガネセンガン」を“やや弱”,「ダイチノユメ」を“弱”の指標品種として用いた.
サツマイモネコブセンチュウ抵抗性は,育成地にて,圃場検定とポット試験の2種類の調査を行った.圃場検定では,前年に抵抗性“弱”の「農林1号」を作付けした汚染圃場に苗を定植し,塊根と細根へのネコブ着生程度を肉眼観察し,「農林1号」を“弱”の指標として“弱”から“強”の5段階で判定した.ポット試験は,サツマイモ一節苗に500頭のサツマイモネコブセンチュウ二期幼虫を接種し,約32日後の着生卵のう数を数え,2より少ない場合に“強”,2以上で10より少ない場合に“やや強”,10以上で50より少ない場合に“中”,50以上で100より少ない場合に“やや強”,100以上の場合に“弱”と判定した(Sano and Iwahori 2005, Tabuchi et al. 2017).
ミナミネグサレセンチュウ抵抗性は育成地にて調査を行った.前年に抵抗性“弱”の「農林2号」を作付けした汚染圃場に苗を定植し,塊根の腐敗症状を肉眼観察し,「農林2号」を“弱”の指標として“弱”から“強”の5段階で判定した.
サツマイモ立枯病抵抗性は徳島県立農林水産総合技術センターによる圃場検定,サツマイモ黒斑病抵抗性は長崎県農林技術開発センターによる苗および塊根への病原菌接種による検定により評価した.
5. 蒸しいも特性および食品加工適性の調査蒸しいも特性は,2023年の早掘栽培および晩植栽培を除き,生産力検定試験にて収穫した塊根を用いて評価した.2023年の早掘栽培および晩植栽培の耕種概要を付表1に示す.各作型における蒸しいも特性について,収穫1~2週間後の塊根を用いて調査した.塊根3本を供試し,蒸し器(MUD-14B,マルゼン)または蒸し鍋で約1時間蒸した後,肉色および肉質,繊維の多少,食味を評価した.黒変度は,輪切りにした蒸しいもを室内で一晩放置し,翌日に達観評価を行った.糖度は,供試した3本から適当量ずつサンプリングしてよく混ぜ合わせて1サンプルとした.貯蔵に伴う蒸しいも特性の変化を明らかにするため,標準栽培した塊根を育成地の貯蔵庫にて貯蔵し,貯蔵期間約1週間,1か月,3か月,4か月(2023年のみ)における肉質と糖度を調査した.いずれの調査においても,糖度は蒸しいもサンプルを水で4倍希釈し糖度計(PR-101α,アタゴ)で測定した値を4倍して求めた.
食品加工適性については,一般財団法人いも類振興会が主催するかんしょ品質評価研究会にて,実需者による評価を行った.
6. 現地圃場および普及見込み地域における調査育成機関により現地圃場(宮崎県都城市梅北町)における栽培試験を行った.調査は生産力検定試験の方法に準じて行った.耕種概要を付表1に示す.
普及見込み地域の公設試験研究機関にて奨励品種決定試験を行った.宮崎県では宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場にて,鹿児島県では鹿児島県農業開発総合センター大隅支場にて試験を行った.標準品種として「高系14号」を供試した.「宮崎紅」および「ベニサツマ」はそれぞれ宮崎県および鹿児島県における「高系14号」のブランド名である.耕種概要を付表2に示す.
草姿は“開張”,茎の一次側枝の長さは“やや短”,節間長は“やや短”,茎の太さは“やや太”,茎のアントシアニンの着色は“強”,茎の先端のアントシアニンの着色は“無または極弱”,節のアントシアニンの着色は“強”,茎の先端の毛の粗密は“無または極粗”であった.葉身の形は“三角形”,葉身の表面の色は“黄緑~緑”,葉身の表面のアントシアニンの着色は“無または極弱”,葉身の裏面の葉脈のアントシアニン着色の大きさおよび強弱は“小”および“中”,新葉の表面の主な色は“緑~暗緑”,葉柄のアントシアニンの着色は“やや強”,葉柄の長さは“やや長”であった.塊根の形は“卵形”,塊根の幅に対する長さは“中”,塊根の直径に対する皮層の厚さは“厚”であった.塊根の表皮の主な色および二次色は“紫赤”および“無”,塊根の肉の主な色およびその濃淡は“黄白”および“淡~中”,塊根の目の深さは“浅”であった(表1,図2).
形態的特性および萌芽性,貯蔵性
特性名 | 品種名 | ||
---|---|---|---|
べにひなた | べにはるか | 高系14号 | |
地上部の形態的特性1) | |||
茎のアントシアニンの着色 | 強 | 中 | 無又は極弱 |
葉身の裂片の数 | 無 | 無 | 5 |
葉身の形 | 三角形 | 心臓形 | ― |
葉身の裂片の深さ | ― | ― | 極浅 |
葉身の裏面の葉脈のアントシアニン着色の大きさ | 小 | やや大 | 小 |
葉身の裏面の葉脈のアントシアニン着色の強弱 | 中 | 弱 | 弱 |
新葉の表面の主な色 | 緑~暗緑 | 淡緑 | 淡緑 |
地下部の形態的特性1) | |||
塊根の形 | 卵形 | 卵形 | 楕円形 |
塊根の表皮の主な色 | 紫赤 | 紫赤 | 紫赤 |
塊根の肉の主な色 | 黄白 | 黄白 | 黄白 |
塊根の肉の主な色の濃淡 | 淡~中 | 淡~中 | 淡 |
塊根の目の深さ | 浅 | 浅 | 浅 |
塊根の形状整否 | 中~やや整 | 中~やや整 | やや不整 |
塊根の外観 | 中~やや上 | 中~やや上 | やや下 |
萌芽性2) | やや良 | やや良 | 不良~やや不良 |
貯蔵性3) | やや易 | NA | NA |
1) 2021~2022年.「高系14号」は2022年のみの評価値.
2) 2022~2023年.
3) 2018~2023年.
塊根は皮色が“紫赤”,形状整否が“中~やや整”,外観が“中~やや上”と外観品質に優れる.類似品種である「べにはるか」とは塊根の形質から区別することは難しく,地上部に区別性がある.葉身の形と葉身の裏面の葉脈のアントシアニン着色の大きさおよび強弱が,「べにはるか」はそれぞれ“心臓形”,“やや大”,“弱”であるのに対し,「べにひなた」がそれぞれ“三角形”,“小”,“中”である点が異なる(表1,図2).
2. 萌芽性および収量性苗床における種いもの萌芽特性は,萌芽の遅速は“やや早~中”,萌芽揃の整否は“やや整~整”,萌芽伸長の遅速は“やや遅~中”,萌芽の多少は“やや多”であり,総合評価は「高系14号」よりも優れ「べにはるか」並みの“やや良”であった(表1).
生産力検定試験の結果を表2および表3に示す.「べにひなた」の上いも重および一株上いも重は,2年間の試験の結果,「高系14号」と比較して標準栽培では60~80%程度重く,早掘栽培では15~20%程度重く,晩植栽培では同等か20%程度重かった.3年間の試験の結果,「べにはるか」と比較して,標準栽培では上いも重は同等かやや重く,一株上いも重は同等かやや軽く,総合すると収量性は同等であった.また,2年間の試験の結果,「べにはるか」と比較して早掘栽培では同等か15%程度高く,晩植栽培では10%程度低かった.切干歩合は35~39%と高く,「高系14号」を5~8ポイント,「べにはるか」を1~2ポイント上回った.
生産力検定試験結果(標準栽培1))
特性名 | 品種名 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 平均 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2022~2023年3) | 2021~2023年4) | |||||||
つる重 (kg/a) |
べにひなた | 387 | 440 | 454 | 447 | a | 427 | * |
高系14号 | NA | 286 | 288 | 287 | b | ― | ||
べにはるか | 308 | 350 | 305 | 328 | b | 321 | ||
欠株率2) (%) |
べにひなた | 0.7 | 5.6 | 6.3 | 5.9 | ― | 4.2 | ― |
高系14号 | NA | 11.8 | 9.7 | 10.8 | ― | |||
べにはるか | 2.1 | 9.0 | 18.1 | 13.5 | 9.7 | |||
上いも重 (kg/a) |
べにひなた | 373 | 289 | 260 | 274 | a | 307 | ns |
高系14号 | NA | 154 | 158 | 156 | b | ― | ||
べにはるか | 372 | 269 | 249 | 259 | a | 296 | ||
同上対標準比 (%) |
べにひなた | ― | 188 | 164 | 176 | ― | ― | ― |
高系14号 | ― | 100 | 100 | 100 | ― | |||
べにはるか | ― | 174 | 157 | 166 | ― | |||
一株上いも重 (kg/株) |
べにひなた | 0.988 | 0.804 | 0.727 | 0.765 | a | 0.840 | ns |
高系14号 | NA | 0.459 | 0.461 | 0.460 | b | ― | ||
べにはるか | 0.996 | 0.777 | 0.791 | 0.784 | a | 0.855 | ||
上いも一個重 (g) |
べにひなた | 228 | 195 | 211 | 203 | ns | 212 | ns |
高系14号 | NA | 164 | 146 | 155 | ― | |||
べにはるか | 184 | 224 | 184 | 204 | 197 | |||
一株当たり 上いも個数 |
べにひなた | 4.3 | 4.1 | 3.4 | 3.8 | ns | 4.0 | ns |
高系14号 | NA | 2.8 | 3.1 | 3.0 | ― | |||
べにはるか | 5.4 | 3.5 | 4.3 | 3.9 | 4.4 | |||
切干歩合 (%) |
べにひなた | 38.6 | 38.5 | 39.6 | 39.1 | a | 38.9 | * |
高系14号 | NA | 30.7 | 32.1 | 31.4 | b | ― | ||
べにはるか | 37.3 | 37.3 | 37.6 | 37.5 | a | 37.4 |
1) 生分解性黒マルチ栽培.畝間75 cm,株間35 cm.5月中旬植付,10月上~中旬収穫.詳細は付表1を参照.
2) 面積当たりの量である上いも重に対する補足データであるため,統計処理は行わなかった.
3) Tukey-Kramer法による多重比較検定.同じアルファベットが付された値同士には有意差が認めれらなかった(p < 0.05).nsは有意差が認められなかったことを表す.
4) t検定.*は優位差が認められたこと,nsは有意差が認められなかったことを表す(p <0.05).
生産力検定試験結果(早掘栽培1)および晩植栽培2))
特性名 | 品種名 | 早掘栽培1) | 晩植栽培2) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2021年 | 2022年 | 平均4) | 2021年 | 2022年 | 平均4) | |||||
欠株率3) (%) |
べにひなた | 0.0 | 2.1 | 1.0 | ― | 2.1 | 11.5 | 6.8 | ― | |
高系14号 | 2.1 | 0.0 | 1.0 | 6.3 | 8.3 | 7.3 | ||||
べにはるか | 0.0 | 1.0 | 0.5 | 3.1 | 11.5 | 7.3 | ||||
上いも重 (kg/a) |
べにひなた | 191 | 193 | 192 | ns | 257 | 197 | 227 | ns | |
高系14号 | 163 | 165 | 164 | 200 | 203 | 202 | ||||
べにはるか | 187 | 168 | 178 | 277 | 231 | 254 | ||||
同上対標準比 (%) |
べにひなた | 117 | 117 | 117 | ― | 129 | 97 | 113 | ― | |
高系14号 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | ||||
べにはるか | 115 | 102 | 109 | 139 | 113 | 126 | ||||
一株上いも重 (kg/株) |
べにひなた | 0.501 | 0.513 | 0.507 | ns | 0.688 | 0.584 | 0.636 | ns | |
高系14号 | 0.433 | 0.432 | 0.433 | 0.562 | 0.583 | 0.572 | ||||
べにはるか | 0.490 | 0.444 | 0.467 | 0.750 | 0.691 | 0.721 | ||||
上いも一個重 (g) |
べにひなた | 125 | 172 | 149 | ns | 162 | 174 | 168 | ns | |
高系14号 | 129 | 148 | 138 | 177 | 151 | 164 | ||||
べにはるか | 113 | 141 | 127 | 182 | 189 | 186 | ||||
一株当たり 上いも個数 |
べにひなた | 4.0 | 3.0 | 3.5 | ns | 4.2 | 3.4 | 3.8 | ns | |
高系14号 | 3.4 | 2.9 | 3.2 | 3.2 | 3.9 | 3.5 | ||||
べにはるか | 4.4 | 3.2 | 3.8 | 4.1 | 3.6 | 3.9 | ||||
切干歩合 (%) |
べにひなた | 35.1 | 37.2 | 36.1 | ns | 37.6 | 32.1 | 34.8 | ns | |
高系14号 | 28.6 | 33.4 | 31.0 | 30.3 | 25.4 | 27.9 | ||||
べにはるか | 32.8 | 36.1 | 34.5 | 34.3 | 31.4 | 32.9 |
1) 生分解性黒マルチ栽培.畝間75 cm,株間30 cm.4月中旬植付,8月上旬収穫.詳細は付表1を参照.
2) 生分解性黒マルチ栽培.畝間75 cm,株間35 cm.6月下旬植付,11月中旬収穫.詳細は付表1を参照.
3) 面積当たりの量である上いも重に対する補足データであるため,統計処理は行わなかった.
4) t検定.nsは有意差が認められなかったことを表す(p < 0.05).
サツマイモ基腐病抵抗性は2年間の試験の結果から“強”と判定され,“やや弱”と判定された「高系14号」および“弱~やや弱”と判定された「べにはるか」より優れる(表4).サツマイモネコブセンチュウ抵抗性は,佐賀県・長崎県・熊本県での優占レースSP1(Sano and Iwahori 2005)に対しては圃場検定とポット試験のいずれも“強”,宮崎県および鹿児島県における優占レースSP2(Sano and Iwahori 2005)に対してはポット試験で“強”と判定された.レースSP3,SP4,SP6-1,SP6-2については,ポット試験の結果,それぞれ“強”,“やや強”,“強”,“中”の抵抗性を示した.ミナミネグサレセンチュウ抵抗性は“中”,サツマイモ立枯病抵抗性は“やや強”,サツマイモ黒斑病抵抗性は“弱”であった.貯蔵性は“やや易”であった(表1).
病害虫抵抗性
品種名 | サツマイモ基腐病1) | サツマイモネコブセンチュウ | ミナミネグサレセンチュウ3) | サツマイモ立枯病4) | サツマイモ黒斑病5) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
圃場検定2) | レース別ポット試験 | ||||||||||
SP1 | SP2 | SP3 | SP4 | SP6-1 | SP6-2 | ||||||
べにひなた | 強 | 強 | 強 | 強 | 強 | やや強 | 強 | 中 | 中 | やや強 | 弱 |
高系14号 | やや弱 | 弱 | やや弱 | 中 | やや弱 | 弱 | 弱 | やや弱 | 中 | 弱 | やや弱 |
べにはるか | 弱~やや弱 | 強 | 中 | 中 | 強 | 中 | やや強 | 弱 | やや弱 | NA | NA |
1) 2021~2022年.
2) 優占レースSP1.2018~2019年および2021~2023年.
3) 2018~2019年および2021~2023年.
4) 徳島県立農林水産総合技術支援センターによる調査,2019年.
5) 長崎県農林技術開発センターによる調査,2019年.
早掘栽培および標準栽培,晩植栽培した塊根の,掘り取り後1~2週間の蒸しいも特性について調査した結果を表5に示す.肉色は“淡黄白”で,早掘栽培および標準栽培,晩植栽培のいずれにおいても「高系14号」や「べにはるか」より薄かった.肉質はいずれの作型においても“中”と評価され,「高系14号」や「べにはるか」と比較して大きな違いは無かった.食味は,早掘栽培および標準栽培,晩植栽培のいずれでも“やや上”であった.糖度は早掘栽培および標準栽培で「高系14号」より4~5ポイント程度高く,「べにはるか」より1~4ポイント程度低かった.晩植栽培では「高系14号」より6ポイント程度高く,「べにはるか」と同程度であった.
各作型における蒸しいも特性1)
作型 | 品種名 | 肉色 | 肉質 | 繊維の多少 | 黒変度 | 食味 | 糖度(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
早掘栽培 (2021~2023年) |
べにひなた | 淡黄白 | 中 | やや多 | 中~やや多 | やや上 | 26.0 |
高系14号 | 淡黄 | 中 | 中 | 中 | 中 | 20.8 | |
べにはるか | 淡黄 | 中 | 中 | 中 | やや上 | 27.0 | |
標準栽培 (2021~2023年) |
べにひなた | 淡黄白 | 中 | やや少 | 中 | やや上 | 21.6 |
高系14号 | 黄白 | 中 | 中 | 中~やや多 | 中 | 17.6 | |
べにはるか | 淡黄 | 中 | やや少 | 中 | やや上 | 25.1 | |
晩植栽培 (2021~2023年) |
べにひなた | 淡黄白 | 中 | やや多 | 中~やや多 | やや上 | 22.0 |
高系14号 | 淡黄 | やや粘 | 中 | 中 | 中 | 16.7 | |
べにはるか | 黄白 | 中 | 中 | 中 | やや上 | 21.5 |
1) 収穫1~2週間後の塊根を試験に供試した.標準栽培の「高系14号」は2022~2023年の評価.早掘栽培の「べにひなた」の糖度は2022~2023年の評価.
標準栽培した塊根の,貯蔵に伴う蒸しいもの肉質および糖度の変化について,2022年および2023年の2年間調査した(表6).なお2022年の試験では,2023年の試験と比較して,いずれの作型・品種においても,貯蔵期間が同程度の時点における肉質がより粘質である傾向にあった.「べにひなた」の肉質は3~4か月間貯蔵しても“中”であり,“やや粘”あるいは“粘”を示さなかった.「高系14号」の肉質は,粘質になりやすかった2022年の試験では貯蔵すると“やや粘”を示したが,2023年は貯蔵しても“やや粉”あるいは“中”であった.「べにはるか」の肉質は貯蔵により“やや粘”あるいは“粘”となった.以上より,「べにひなた」の肉質は貯蔵しても粘質とならず,その点「べにはるか」より「高系14号」に近い特性を示すことが明らかとなった.
貯蔵に伴う蒸しいも特性の変化1)
試験年次(糖度の反復数) | 貯蔵期間(約) | べにひなた | 高系14号 | べにはるか | 二元配置分散分析の結果(糖度) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
肉質 | 糖度(%) | 肉質 | 糖度(%) | 肉質 | 糖度(%) | ||||||||
2022年 (n = 12)) |
1週間 | 中 | 22.8 | 中 | 18.4 | 中 | 27.6 | ― | |||||
1か月 | 中 | 24.4 | やや粘 | 16.0 | 中 | 25.2 | |||||||
3か月 | 中 | 26.0 | やや粘 | 18.8 | 粘 | 33.6 | |||||||
2023年 (n = 33)) |
1週間 | やや粉 | 20.5 | cde | 中 | 16.8 | e | 中 | 22.5 | bcde | 貯蔵期間:p < 0.05 品種:p < 0.05 交互作用:p < 0.05 |
||
1か月 | やや粉 | 22.9 | bcde | やや粉 | 17.1 | de | 中 | 23.6 | bcd | ||||
3か月 | 中 | 26.0 | abc | 中 | 18.9 | de | やや粘 | 31.6 | a | ||||
4か月 | 中 | 28.1 | ab | 中 | 17.3 | de | やや粘 | 30.8 | a |
1) 標準栽培した塊根3本を供試した.
2) 塊根3本から適当量ずつ蒸しいもをサンプリングし,よく混ぜ合わせて1サンプルとして糖度を測定した.
3) 1本の塊根から取った蒸しいもサンプルを1サンプルとして計3サンプルの糖度を測定した.品種と貯蔵期間を要因とした二元配置分散分析およびTukey-Kramer法による下位検定を行った.同じアルファベットが付された値同士には有意差が認められなかった(p < 0.05).
糖度については,2023年の試験の結果,「高系14号」は貯蔵期間が長くなっても糖度が変化しなかったのに対し,「べにひなた」と「べにはるか」は貯蔵に伴い糖度が上昇した(表6).貯蔵期間1週間では3品種の糖度に有意な差は無かったが,3か月貯蔵すると「べにひなた」と「べにはるか」の糖度は「高系14号」に比べて高くなり,有意な差が認められた.また,「べにひなた」の糖度は「べにはるか」よりも低かったものの,貯蔵期間全体を通じて2品種の間に有意な差は見られなかった.2022年は,2023年の結果と比較して「べにひなた」と「べにはるか」の値の差が大きいものの,それ以外の点については同様の結果であった.以上より,「べにひなた」の糖度は「高系14号」より高く「べにはるか」より低く推移し,貯蔵に伴い上昇することが明らかとなった.
「べにひなた」の食品加工適性について,かんしょ品質評価研究会にて,実需者による評価を行った(一般財団法人いも類振興会 2021, 2022).けんぴおよびチップへの加工適性試験では,2021年の素揚げの評価は対照品種の「コガネセンガン」あるいは「べにはるか」よりやや低かったものの,2022年の蜜漬けの試験では同等の評価が得られた(表7).他の加工品(焼いもおよびペースト,ダイス,いもようかん,大学いも)については,肉質の粉質感が強い点や肉色が薄い点から,適性が低いと評価された.
けんぴ・チップ加工適性評価成績1)
べにひなた | コガネセンガン | べにはるか | 「べにひなた」に対するコメント | |||
---|---|---|---|---|---|---|
2021年(素揚げ) | けんぴ | 外観 | 3.3 | 4.0 | NA | ほのかに甘みを感じる.食感は,少しかためだが,良い.見た目はきれい. |
風味 | 3.4 | 3.8 | NA | |||
食感 | 3.3 | 4.3 | NA | |||
食味 | 3.4 | 4.0 | NA | |||
合計 | 13.4 | 16.1 | ― | |||
チップ | 外観 | 3.7 | 3.7 | 3.7 | 芋の甘みはある.見た目良い. | |
風味 | 3.1 | 3.8 | 3.7 | |||
食感 | 3.7 | 4.0 | 3.7 | |||
食味 | 3.5 | 3.9 | 3.9 | |||
合計 | 14.0 | 15.4 | 15.0 | |||
2022年(蜜漬け) | けんぴ | 外観 | 2.8 | 3.0 | NA | 色ムラある.少しかたい.芋の甘味ある. |
風味 | 3.2 | 3.0 | NA | |||
食感 | 2.9 | 3.0 | NA | |||
食味 | 3.2 | 3.0 | NA | |||
合計 | 12.1 | 12.0 | ― | |||
チップ | 外観 | 3.3 | NA | 3.0 | 綺麗.後味悪くない. | |
風味 | 2.8 | NA | 3.0 | |||
食感 | 3.0 | NA | 3.0 | |||
食味 | 2.8 | NA | 3.0 | |||
合計 | 11.9 | ― | 12.0 |
1) 澁谷食品株式会社による試験.2021年は検査者11名による判定:5(大変良い),4(良い),3(普通,可),2(やや劣る),1(不可).2022年は検査者12名による判定:5(大変良い),4(良い),3(同等),2(やや劣る),1(不可).
育成機関にて現地圃場(宮崎県都城市)における栽培試験を行った結果を表8に示す.標準黒ポリマルチ栽培において,上いも重は,2021年は「べにはるか」と同等で,2022年は「べにはるか」より53%重かった.
現地圃場(宮崎県都城市梅北町)における試験成績1)
特性名 | 品種名 | 2021年 | 2022年 | 平均 |
---|---|---|---|---|
上いも重 (kg/a) |
べにひなた | 291 | 397 | 344 |
べにはるか | 297 | 259 | 278 | |
同上対標準比 (%) |
べにひなた | 98 | 153 | 126 |
べにはるか | 100 | 100 | 100 | |
上いも一個重 (g) |
べにひなた | 205 | 274 | 240 |
べにはるか | 190 | 245 | 218 | |
一株当たり 上いも個数 |
べにひなた | 5.0 | 4.9 | 5.0 |
べにはるか | 5.4 | 4.1 | 4.8 | |
切干歩合 (%) |
べにひなた | 37.3 | 36.5 | 36.9 |
べにはるか | 35.0 | 35.9 | 35.5 |
1) 標準黒ポリマルチ栽培.畝間100 cm,株間35 cm.2021年:5月17日植付,10月11日収穫;2022年:4月20日植付,9月20日収穫.約150日間栽培.詳細は付表1を参照.
宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場による試験の結果を表9に示す.概評より「外観は良く,皮色も優れている」,「形状のバラツキも少ない」との評価であった.塊根の外観の評価は,「宮崎紅」より優れる“良”であった.蒸しいもの肉色は“浅緑黄”あるいは“淡黄”であり「宮崎紅」より薄く,肉質は“やや粉”と評価され,食味は「宮崎紅」と同等の“中”であった.上いも重は,2021年は「宮崎紅」より23%高かったが,2022年は「宮崎紅」より16%低く2年間の試験の間で差が大きかった.A品率は「宮崎紅」より25ポイント程度高かった.
宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場による試験の成績1)
試験年次 | 品種 | 塊根 | 蒸しいも | 上いも重(kg/a) | 同左対標準比 | A品率(%) | 切干歩合(%) | 上いも一個重(g) | 一株当たり上いも数 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
皮色 | 外観 | 肉色 | 肉質 | 食味 | |||||||||
2021年 | べにひなた | 紫赤 | 良 | 淡緑黄 | やや粉 | 中 | 314 | 123 | NA | 42.6 | 179 | 4.8 | |
宮崎紅2) | 濃紫赤 | 中 | 濃黄 | 中 | 中 | 256 | 100 | NA | 36.0 | 177 | 3.9 | ||
2022年 | べにひなた | 濃紅 | 良 | 淡黄 | やや粉 | 中 | 143 | 84 | 70.0 | 40.4 | 157 | 2.2 | |
宮崎紅2) | 暗紅 | 中 | 濃黄 | 中 | 中 | 171 | 100 | 44.7 | 40.3 | 137 | 3.0 |
1) 畑作園芸支場内における試験.標準黒ポリマルチ栽培.2021年:畝間90 cm,株間30 cm;2022年:畝間80 cm,株間30 cm.約120日間栽培.詳細は付表2を参照.
2) 「宮崎紅」は「高系14号」の宮崎県におけるブランド名.
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場による試験の結果を表10に示す.塊根の外観の評価は,「ベニサツマ」あるいは「高系14号」より優れる“上中”あるいは“上中~上上”であった.蒸しいもの肉色は“白~淡黄白”あるいは“淡黄白”と「ベニサツマ」あるいは「高系14号」より薄く,肉質は“粉”あるいは“粉~やや粉”と評価され,食味は“やや上”と「高系14号」あるいは「ベニサツマ」をやや上回った.大隅支場内で2年間行った試験では,上いも重は「ベニサツマ」または「高系14号」に比べ,青果用普通掘栽培で108%とやや高く,青果用早掘栽培および加工用早掘栽培,加工用普通掘栽培では80%程度と低かった.A品率は「ベニサツマ」あるいは「高系14号」よりも高い値を示した.南九州市の現地圃場では,2022年は上いも重は「ベニサツマ」より26%重かったが,A品率が「ベニサツマ」より18ポイント低かった.2023年は多肥条件での栽培であったが,上いも重が「ベニサツマ」より21%軽く,A品率が「ベニサツマ」より10ポイント低かった.
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場による試験の成績(2022~2023年)
試験場所 | 栽培条件 | 品種 | 塊根 | 蒸しいも | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
皮色 | 外観 | 肉色 | 肉質 | 食味 | ||||
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場 | 青果用早掘1)黒ポリマルチ | べにひなた | 紫赤 | 上中 | 白~淡黄白 | 粉~やや粉 | やや上 | |
ベニサツマ6) | 紫赤 | 上下 | 黄白 | やや粉 | 中 | |||
べにはるか | 紫赤 | 上中 | 黄白 | 中~やや粘 | やや上~上 | |||
青果用普通掘2)黒ポリマルチ | べにひなた | 紫赤 | 上中 | 白~淡黄白 | 粉 | やや上 | ||
ベニサツマ6) | 紫赤 | 上下 | 黄白 | やや粉 | 中~やや上 | |||
べにはるか | 紫赤 | 上中 | 黄白 | やや粘 | 上 | |||
加工用早掘3)黒ポリマルチ | べにひなた | 紫赤 | 上中 | 白~淡黄白 | 粉 | やや上 | ||
高系14号 | 紫赤 | 上下 | 黄白 | やや粉 | やや上 | |||
加工用普通掘4)黒ポリマルチ | べにひなた | 紫赤 | 上中 | 白~淡黄白 | やや粉 | やや上 | ||
高系14号 | 紫赤 | 上下 | 黄白 | やや粉 | 中 | |||
南九州市頴娃町 | 早掘5)黒ポリマルチ | べにひなた | 紫赤 | 上中~上上 | 淡黄白 | 粉 | やや上 | |
ベニサツマ6) | 紫赤 | 上中 | 黄白 | やや粉 | やや上 | |||
べにはるか | 紫赤 | 上上 | 黄白 | 中 | やや上 |
試験場所 | 栽培条件(試験年次) | 品種 | 上いも重(kg/a) | 同左対標準比 | A品収量(kg/a) | 同左対標準比 | A品率(%) | 長いも率(重量%) | 上いも一個重(g) | 一株当たり上いも数 | 切干歩合(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鹿児島県農業開発総合センター大隅支場 | 青果用早掘1)黒ポリマルチ | べにひなた | 158 | 83 | 91 | 106 | 59 | 95 | 125 | 3.6 | NA |
ベニサツマ6) | 190 | 100 | 86 | 100 | 46 | 94 | 174 | 3.1 | NA | ||
べにはるか | 163 | 84 | 86 | 100 | 55 | 93 | 118 | 3.8 | NA | ||
青果用普通掘2)黒ポリマルチ | べにひなた | 144 | 108 | 92 | 425 | 67 | 88 | 132 | 3.0 | NA | |
ベニサツマ6) | 136 | 100 | 26 | 100 | 19 | 96 | 144 | 2.7 | NA | ||
べにはるか | 159 | 122 | 75 | 315 | 46 | 88 | 134 | 3.3 | NA | ||
加工用早掘3)黒ポリマルチ | べにひなた | 234 | 82 | 219 | 86 | 93 | NA | 190 | 3.9 | 37.0 | |
高系14号 | 285 | 100 | 254 | 100 | 88 | NA | 254 | 3.6 | 33.7 | ||
加工用普通掘4)黒ポリマルチ | べにひなた | 161 | 79 | 153 | 92 | 95 | NA | 169 | 3.0 | 35.1 | |
高系14号 | 210 | 100 | 169 | 100 | 80 | NA | 230 | 2.9 | 32.1 | ||
南九州市頴娃町 | 早掘5) 黒ポリマルチ(2022年) |
べにひなた | 277 | 126 | 175 | 97 | 63 | 90 | 185 | 4.7 | NA |
ベニサツマ6) | 219 | 100 | 180 | 100 | 81 | 75 | 191 | 3.6 | NA | ||
べにはるか | 240 | 110 | 171 | 95 | 72 | 90 | 164 | 4.6 | NA | ||
早掘5) 黒ポリマルチ(2023年) |
べにひなた | 183 | 79 | 127 | 70 | 69 | 89 | 138 | 3.9 | NA | |
ベニサツマ6) | 231 | 100 | 182 | 100 | 79 | 56 | 215 | 3.2 | NA | ||
べにはるか | 208 | 90 | 152 | 84 | 73 | 89 | 150 | 4.1 | NA |
1) 畝間80 cm,株間35 cm.4月下旬植付,8月下旬収穫.詳細は付表2を参照.
2) 畝間80 cm,株間35 cm.5月下旬植付,9月中旬~10月上旬収穫.約120日間栽培.詳細は付表2を参照.
3) 畝間90 cm,株間40 cm.4月下旬植付,9月下旬収穫.詳細は付表2を参照.
4) 畝間90 cm,株間40 cm.5月下旬植付,10月下旬収穫.詳細は付表2を参照.
5) 畝間90 cm,株間35 cm.2022年:4月27日植付,9月14日収穫;2023年:4月27日植付,8月24日収穫.施肥量(kg/a)は2022年がN:P:K = 0.3:0.9:0.9で,2023年がN:P:K = 1.15:2.01:3.25.
6) 「ベニサツマ」は「高系14号」の鹿児島県におけるブランド名.
以上より,育成地における試験と同様,普及見込み地域の公設試験研究機関における試験でも「べにひなた」は塊根の外観に優れ,蒸しいもの肉色は「高系14号」と比較して薄く,肉質は粉質であり,食味は「高系14号」と同等以上であるという評価であった.A品率は「高系14号」に比べて高い傾向にあり,上いも重は「高系14号」比79~126%であった.
新たな青果・食品加工用品種「べにひなた」の最大の特長は,サツマイモ基腐病抵抗性が“強”であるという点である(表4).南九州では,マニュアル『サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策』(農研機構ら 2023)に記載の防除対策が広く実施されるようになったことで,生産量は,サツマイモ基腐病発生以降で最低を記録した2021年の261,600トンから回復傾向にあり,2022年は287,900トン,2023年は284,300トンとなっている(農林水産省 2024b).しかし,依然としてサツマイモ基腐病は南九州のサツマイモ栽培で最も留意が必要な病害であり,また,一般的に発生状況にはばらつきがある.南九州の青果・食品加工用産地にて,今後被害が深刻となってしまった場合に,また,被害がなかなか減少しない地域を対象に,抵抗性“強”の「べにひなた」を導入するという使い方が想定される.
「べにひなた」の収量性について,育成地では,標準栽培および早掘栽培,晩植栽培の3作型で生産力検定試験を行ったが,このうち南九州の産地で実際に行われている作型に近いのは標準栽培および早掘栽培である.育成機関による試験では,標準栽培あるいは早掘栽培における「べにひなた」の収量性は「高系14号」より優れ「べにはるか」と同等以上であることを確認したが(表2,表3,表8),普及見込み地域における試験では,試験の条件によりばらつきが見られた(表9,表10).「べにひなた」の安定生産を実現するためには,今後の栽培研究が求められる.
品種が普及するためには,収穫物が安定的に利用される必要がある.南九州では,比較的ほくほくとした食感であっさりとした甘みの「高系14号」と,ねっとりとした食感で甘みの強い「べにはるか」という品質の異なる2品種が利用されてきた.青果・食品加工用のサツマイモ品種を利用面で主に特徴づけるのは肉質であるが,「べにひなた」は貯蔵しても肉質が粘質とならなかったことから,「べにはるか」よりも「高系14号」に近いタイプと位置づけられる(表6).よって,「高系14号」の一部置き換えとなるような使われ方が想定される.なお,食品加工の用途においては,貯蔵しても肉質の変化が小さいという特性は,加工原料としての安定性を有する点で好ましい特性である.ただし,青果・食品加工用品種の品質に求められる基準は高く,「べにひなた」は皮色および塊根の形といった外観品質には優れるが(表1,表9,表10),蒸しいもの肉色が薄い点(表5,表9,表10)は短所である.また,かんしょ品質評価研究会における試験で指摘があったように,加工用途によっては粉質感が強い点も今後の課題である.
サツマイモ基腐病に強度の抵抗性を持ち,外観品質に優れるほくほくとしたタイプの青果・食品加工用サツマイモ品種「べにひなた」は,サツマイモ基腐病による被害が懸念される南九州にて被害状況に応じて産地に取り入れられ,「高系14号」を補完する用途で利用されることで,南九州における青果・食品加工用サツマイモの安定生産に貢献すると期待される.
2. 「べにひなた」の栽培適地および利用上の留意点「べにひなた」は南九州向けの新品種を育成する目的のもとで育成された品種であり,普及見込み地域における試験として宮崎県と鹿児島県で試験を行ったことから(表9,表10),栽培適地は南九州のサツマイモ作地帯である.
利用上の注意として,塊根は「べにはるか」とよく似ているため,混入が起こらないように適切に管理する必要がある.また,サツマイモ黒斑病に弱いため,発生地帯では栽培を避ける.サツマイモ基腐病に対しては強い抵抗性があるものの,全く罹病しないわけではないため,種いもは健全圃場から採取し,圃場の排水対策や発病株の見廻り,残渣処理といった基本的な防除対策(農研機構ら 2023)の実施は必要である.
「べにはるか」と同様に,肉色の白い塊根が生じることがある.「べにはるか」では,肉色の薄い種いもから採苗した場合,収穫した塊根の肉色も薄いことが確認されている(末松 2020).そのため,伏せこむ前に塊根の尾部を切って断面の肉色を確認し,全面が均一に黄白色のものだけを種いもに用いる種いも選別が推奨されている.「べにひなた」についても,種いもを伏せこむ前に同様の作業を行う必要がある.
本品種の育成にあたり,宮崎県総合農業試験場専門技術センター,宮崎県総合農業試験場畑作園芸支場,鹿児島県農業開発総合センター大隅支場,徳島県立農林水産総合技術支援センター,長崎県農林技術開発センター,有限会社コウワ,かんしょ品質評価研究会の担当者の方々には,地域適応性試験や特性検定試験,加工適性試験等にご協力いただいた.また,本品種の交配・育成には農研機構九州沖縄技術支援センター九州第3業務科職員,研究補助スタッフの權掘理惠子,徳留久美子,松﨑あづさ,常盤愛,西留真代の諸氏が従事した.ここに記して厚く感謝の意を表する.
なお本研究の一部は,国際競争力強化技術開発プロジェクト(輸N3甘)およびイノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)「高品質・多収なでん粉原料用カンショ品種の開発(29028C)」および「産地崩壊の危機を回避するためのかんしょ病害防除技術の開発(01020C)」の支援を受けて実施した.
付表1.耕種概要(育成機関による試験).
付表2.耕種概要(普及見込み地域の公設試験研究機関による試験).