抄録
(1)従来個人的経験的なありかたでおこなわれるところが多かった花弁育種の分野にひろく細胞学的遺伝学的知見を導入し,今までの成果を一般的に解明するとともに今後の育種手続を効果的におこたわせる根拠を傷ようと試みた。(2)まずフリージアを材料として市販品種および系統を36点供試し,体細胞染色体数の観察によって2倍体(2n=22)20点,3倍体(2n=33)1点および4倍体(2n=44)15点を区別しえた。そしてそれら型別的にみた砂質のちがいは従来多くの花井種類で観察されたと同様に倍数体化によって茎葉および花器の拡大,分枝数の減少,晩咲化などが顕著に指摘された。2倍体は以前からわが国でも営利栽培に用いられている「不二」などの中小輪咲のもので,さらに戦後欧州から伝えられた高茎実生養成種のSuper Giantsを含んでいる。4倍体は芳香性の強い大輪咲花が多く比較的おそく輸入されたもので純白色のWhite Maryや濃黄色のGolden Buttercupなどが代表的のものである。3倍体は両型の中間形質を示し,「富士の嶺」だけである。(3)充実花粉粒率をみると2倍体の申にも意外に衝い品種があり,逆に4倍体の中に高いものもあってその傾向は一定でなく,従来1・2年生草の同質倍数体で経験された結果と必ずしも一致しておらず,この倍数体は部分的にも異質性であると考えられる。(4)これら全体にわたって品種および系統の内外における種子生成能力を知るために28点を供試し380組合わせの交配をおこない,第5表にまとめられた稔実成績をうることができた。その結果によれば,一般にフリージアにはかなり強い程度に白家不和合性が認められ,また2倍体,3倍体,4倍体のいずれを組合わせでもわずかながら種子をうることが可能であった。(5)3倍体作成をねらって4倍体と2倍体との交雑がおこなわれ,若干の.F1個体の養成もできたが,それらの多くは2倍体や4倍体とたっており,求める3倍体は割合少数であった。この原因は恐らく4倍体生産のx=11また2倍体よりの非還元性x=22の配偶子が比較的強力に受精にあずかったことによると思われる。非還元性とみられる大型花粉粒は多くの品種の藩内でしばしば観察されている。6)このような配偶子形成の異常性や倍数性類型別にみた充実花粉粒率の実態などより考察して,フリージアの2倍性系統は比較的好冷涼性で北方環境に好適し,4倍性系統は比較的温暖環境で充分た開花成熟をとげる好高温性のものであると推論することができる。