抄録
集団における過剰染色体の頻度と環境との関連を明らかにすることは、過剰染色体の地理的分布の機構ないし進化的意義を解明する手掛りとなる。一般に、集団における過剰染色体の頻度は系統の遺伝子型と環境条件によって異なる。従って、その頻度と環境要素との関連を見出す場合には、遺伝子型と一定にして環境の影響について分析しなければならない。また集団における過剰染色体の頻度はその伝達の仕方に基づくので、その伝達時の過剰染色体の行動が環境によって影響されるならば後代集団における頻度も変ってくる。このような観点から、ライ麦を材料とし、遺伝子型を揃えるために最高分蘂期後、幼植物を株分けし、それぞれの株を異なる温度および土壌水分最下で栽培し、得られた子孫集団における過剰染色体の頻度を比較調査した。比較的高温あるいは土壌水分量の少い区からの子孫集団における過剰染色体の頻度は、低温あるいは土壌水分量の多い区からのそれよりもかなり低下した。前者の条件下における低下は、そのような環境条件においては減数分裂期における過剰染色体の消失が著しく、また花粉粒第一分裂後期におけるその不分離が十分行われなかったことに因ると考えられる。さらに過剰染色体の増加による有害作用がそのような条件下で強調され、授精胚の発育が阻害されて種子稔性の低下をきたし、過剰染色体を多く有する個体の出現が減少したこともその一因であろう。上の結果から、ライ麦集団における過剰染色体の頻度は、高い気温および乾燥土壌の条件下では減少することが確認された。