抄録
日本の実用パンコムギ品種を用いて、Aegilops ovataの細胞質をもつ雄性不稔系統と、同細胞質および稔性回復遺伝子Rfc1をもつ稔性回復因子系統を育成し、それらの間で12組合せの一代雑種をつくった。この一代雑種の7形質(出穂期・草丈・分けつ数・小穂数・着粒率・着粒数・千粒重および収量)を、2種類の親系統(コムギの細胞質をもつ正常系統と、Ae. ovataの細胞質とRfc1遺伝子をもつ核置換系統)のものと比較した。そして、これらの形質に対する雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子の遺伝的影響、およびヘテローシスの効果を調べた。雄性不稔細胞質は核置換系統および一代雑種の出穂を遅延させ、稔性と千粒重を低下させた。雄性不稔細胞質と稔性回復遺伝子はともに草丈を高くし、分けつ数と小穂数を増加させる効果を示した。収量については4組合せの一代雑種が両親の正常系統を上廼ったが、その差は有意でなかった。Ae. ovata細胞質に起因する出穂遅延や稔性・千粒重の低下を何らかの方法で克服できれば、一代雑種の収量が優良親品種のそれを上廻ることがじゅうぶん期待される。