抄録
本研究は,トウモロコシのF1個体の花粉が選択受精上有利であるという現象(村上ら1972)が,花粉が混合される自殖系統と系統の構成あるいは授粉される雌親の系統の如何を問わず,普遍的に認められる現象であるかどうかを知るために行われた。胚乳形質の異たる2群,すなわち胚乳色白のデント種2自殖系統とそれらの間のF1,および胚乳色オレンジのフリント種2自殖系統とそれらの間のF1とを実験材料とした。これら2群の実験材料のそれぞれから1自殖系統またはF1を選び,両者の花粉を等量に混合したのち,それぞれの群の自殖系統またはF1の雌穂に授粉すると,授粉された雌親と胚乳形質の異なる自殖系統またはF1の花粉の受精率が,キセニアによる黄色粒率で確かめられる。さらに,混合花粉の一方の花粉親が,F1の場合の受精率とそのF1の両親自殖系統の場合の受精率とを比較することにより,F1(ヘテロ接合体)の花粉が両親自殖系統(ホモ接合体)の花粉より,選択受精上有利であるかどうかを確かめることができる。その結果,24の事例のうち,17例でF1の花粉が両親自殖系統のいずれよりも選択受精上有利であり,5例では中間親より選択受精上有利であった。したがって,F1個体の花粉が選択受精上のヘテローシスを示すことは,かなり普遍性を持つものであると判断できた。