育種学雑誌
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わが国の春播型コムギ主要品種の播性の遺伝分析,とくに春播性遺伝子の同定
後藤 虎男
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1979 年 29 巻 2 号 p. 133-145

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抄録

春播性遺伝子Vrn1,Vrn2,Vrn3,Vrn4,を取込んだTriple Dirk(TD)同質遺伝子系統群をオーストラリヤのPUGSLEY氏から入手したので,それらを供試することによって,わが国の春播型コムギ主要品種の持つ春播性遺伝子の分析を試みた。まず,Vrn遺伝子の特性を十分に把握するため,TD系統群と秋播型コムギ品種との問で交配を行った結果,いずれの交配でもF1の止葉展開までの日数は春播型親(TD系統群)に類似しているが,やや長いことから,春播性遺伝子(Vrn)はいずれも,対立遺伝子(秋播型)に対し不完全優性であることが明らかにされた。さらに,TD系統群問の交配実験の結果から,4つのVrn閉遺伝子はいずれも独立に遺伝することが確かめられた。コムギの春秋播性に関する研究のたかには優性な秋播性遺伝子が存在するとの報告もあり,大麦では優性な秋播性遺伝子の存在が認められている。したがって,コムギでも優性な秋播性遺伝子が存在するか否かを調査する必要があったので,TD系統間のF2で得られた秋播型46個体のうち,十分な種子の得られた41個体の後代F3系統につき分離調査を行った。その結果,これらのF3には春播型個体が出現しなかったので,優性た秋播性遺伝子はこれらの組合せには関与していないことが推定された。わが国暖地の代表的コムギ品種である農林61号,シラサギコムギ,更にはこれらの品種の基幹母本であると同時に,わが国暖地のコムギ品種群にとって共通な基幹母本である江島神力,新中長に対し,TD系統群および秋播型品種を検定品種として交配実験を行った。その結果,Vrn1遺伝子を持つTD-D,Vrn2遺伝子を持つTD-B,およびVrn4遺伝子を持つTD-Fとの問のF2には約1/16の割合で秋播型個体が出現したが,Vrn3遺伝子を持つTD-EとのF。には秋播型個体が出現しなかった。また,秋播型品種との問には約1/4の割合で秋播型個体の出現がみられた。したがって,わが国暖地の在来品種および主要品種の春播型はVrn3によることが推定された。また,ウシオコムギ,新中長には,作用力の小さな変更遺伝子がVrn3のほかに存在することが推定された。

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