抄録
イネの胚生長率に見られた2つのリズムがコムギにも存在するか否かを確かめるために,T.monococcumを用いて胚生長率の時系列解析を行った。1976年6月2日午前5時15分から6時15分までの1時間以内に開花した頴花を,開花後2日目午前6時から12日目午前8時まで,2時間ごとに10個ずつ採取し,胚長および胚厚を測定した。各時刻7~10個の胚の平均値をもってその時刻の胚長・胚厚とした。胚長および胚厚の生長率の変化に周期性が見られたので,生長率の平均値に関して定常化を行った後,生長率のコレログラム解析を行った。次に正確な周期を求めるために,コレログラムとCOS関数との相関係数によるペリオドグラム解析を行った。その結果,胚厚においては6・06時間と7.72時間に有意なピークが見られた。従って胚厚の生長率には2つのリズムが存在する。ところが胚長については有意なピークが6.00時間のみであった。しかし,胚長での2番目に高いピークの位置は7.7昼時聞であり,これは胚厚において2番目に有意なピークの位置とほぼ一致している。また6.00時間付近に数個のピークが見られたが,これらは時系列が右限であるために本来のピークのまわりに必然的に出現する意味のないピークであると考えられる。それらの意味のないピークは本来のピークから離れるに従い減衰するのであるが,7.74時間のピークは減衰性を示さない。以上のことから,胚長での7.74時間に見られるピークは無意味なものではなく,生長率が本来持っているものであると考えられる。従って,胚の生長率には2つのリズムが存在すると言える。